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2009/02/13

<随筆>◇オバマ大統領のチェンジに思う◇ 崔 碩義 氏

 最近のビックニュースといえば、黒人のオバマ氏が超大国アメリカの大統領に当選したことであろう。黒人が大統領になるなんて一昔前なら到底考えられなかった。かつて黒人と白人との間には、学校もバスも違い食事だって一緒にできないという酷い差別、人権無視が存在した。あの「黒人霊歌」はそうした黒人たちが受けてきた苦難と悲哀を詠ったものと言われている。ヨーロッパにおいても一時、黄色人種が抬頭して白色人種に脅威を与えるかも知れないという「黄禍論」が盛んに論議された時期がある。およそこうした人種差別論議ほど愚かでナンセンスなものはない。

 われわれ朝鮮人も日帝時代、民族的蔑視と差別に苦しみ、人間的尊厳を傷つけられて来た。そうした共通の記憶があったせいか、私は今回のオバマ氏の大統領当選の報に接した時、思わず感動して、何故か飛び上がって喜んでいた。それは決して私だけではなく、後で聞くと周囲にいる友人のほとんどが快哉を叫んだという。オバマ氏が「チェンジ」という魅力的なスローガンを掲げて、颯爽と登場した歴史的意味はとても大きいと思う。

 私はこのチェンジという言葉から次の二つのことが脳裏に閃いた。まずは、北朝鮮の極端な独裁体制を終焉させるというチェンジである。どんなに偉大な指導者といえども、これ以上独裁権力が続くのは正直言ってうんざりだ。その上、世襲まで企むとは何事だ! こうした閉鎖社会がこの国の多くの人たちに幸いをもたらすとは到底思えないのである。

 もう一つは、在日の選挙権に関連して指摘したい。在日であるが故に、半世紀以上の長きにわたって選挙権を持たない無権利状態のまま生きて来たという事情が根底にある。これは、現在の民主主義社会ではとても考えられないぐらい異常で、屈辱的なことだ。言わば基本的人権が奪われているに等しい。当事者である我々も又、こうした事態を放置して来たという責任がなくもない。在日の参政権問題は、確かにいろいろ複雑な問題が絡んでいるが(国政選挙、地方自治体選挙の可否など)早急に、現状をチェンジして解決する必要がある。

 今や世界的規模で荒れ狂っている経済的不況は、弱者である我々在日の生活をも直撃している。そもそも今回の事態は、米国の金融危機から来ているが、元はといえば何ら経済的実態のない不健全なマネーゲームから始まったというから呆れる。私は何も政治や経済問題を論じるつもりも、その資格もないが、アメリカの責任は極めて重大である。西部開拓者の時代でもあるまいし、悪しき無法者のポルシ(くせ)がまかり通ることは断じて許されるものではない。

 好漢オバマ新大統領の健闘を祈り、そのリーダーシップに期待したい。だが、所詮一人の力量は知れたものだ。また、オバマと雖も自国の国益を第一に追求するのは当然であるから、私としては過度な期待をしないことにしている。


  チェ・ソギ 作家。在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『韓国歴史紀行』(影書房)などがある。