ここから本文です

2011/12/09

<随筆>◇深夜のチムジルバン◇ マッカン・ジャパン 大西 憲一 代表

 故障続きであまり評判のよくないKTXだが私は好きだ。速くて安くて快適と3拍子揃っている。「新幹線と比べればまだまだ」とは鉄道に詳しい友人の意見だが、料金がまるで違う。ソウル―釜山往復、しかも特室(グリーン車)で約1万円は新幹線(東京―大阪)の四分の一くらいだ。もっとも外国間で単純に料金比較はできないが。

 先日、2カ月ぶりに釜山に里帰りした時もソウル日帰りにKTXを利用した。片道2時間半。以前より30分短縮したので、ドアツードアなら飛行機より便利がいい。特室はミネラルウオーター飲み放題+クッキー食べ放題が嬉しい。小さな悩みは車内販売のオネエサンが静かに&足早に通り過ぎるので、大好きなコーヒーを時々見逃してしまうこと。私を避けているのかな?

 ソウルが近くなって車両前部のトイレに行くと、1号車の客席がやけに暗い。ドアからこっそり覗いてみると、丁度、映画が終わったばかりのようだ。傍にいた車掌によれば、切符を買う時に申し込んで追加費用を払えばいいのだと。中々粋な計らいではないか。今まで知らずにいて損をしたような気がした。

 ソウル駅で帰りの釜山行最終便である午後11時発のチケットを前もって購入して、久しぶりにソウル市内の知人を駆け巡った。Cさんとの夕食は駅三洞の韓国居酒屋。民族風の素朴なたたずまいが気に入った。早速、店自慢の海鮮チヂミを肴にマッコリを二人でグビグビ。

 「韓国の景気は一見良さそうだけど、いいのは一部の大企業だけ。我々中小企業は円高で素材コストも上がって大変」。貧富の差は拡大するばかりで、国民の不満がソウル市長選挙の結果にも現れたというのがCさんの説。

 しこたま飲んでふと時計を見ると10時半を過ぎている。「やばい!最終便に間に合わない」外は小雨が降り続いていて、タクシーを飛ばしてもまず無理だ。KTX料金はあきらめるとしても、さてどこに泊まろうか?「チムジルバンはどうですか?サウナでゆっくりできるしホテルより格安ですよ」。さすがCさん、奥の手をご存知だ。「では腰を落ち着けて飲み直しましょう」ということで、マッコリを追加して談論風発。

 結局、深夜2時過ぎに近くのチムジルバンに駈け込んだ。入場料は1万ウォンポッキリ。この時間でも客が多い。刺青のお兄さんも闊歩している。2階にある仮眠室はだだっ広くて薄暗く、すでに眠っている男どもの体臭が充満していた。暗闇に慣れると横にいたマグロ状態の男の下半身が目に飛び込んできた。全裸だ。よく見るとあちこちに素っ裸の男が転がっている。一風呂浴びてそのまま寝込んでいるのだ。無理に目を閉じたが、イビキに歯ぎしり、それに時折、下半身から発する破裂音の大合奏でとても眠れたものではない。横のマグロが私の方に思いきり寝返ってきた。「助けてくれー!」


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表。