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2014/07/11

<随筆>◇中国・南京を旅して◇広島大学 崔 吉城 名誉教授

 日本を取り巻く環境に反日文化圏がある。韓国、北朝鮮、ロシア、中国、台湾、パラオ、東南アジア諸国を訪れるたびに反日について見て聞いてきた。中でも韓国の反日が一番強く感ずる。それは植民地史と戦後の国際関係によるものであろう。他の地域に比べて朝鮮民族は初めて異民族支配を経験したのが大きい理由といえる。北朝鮮より韓国の「反日」が強いのは、戦後北朝鮮は「反米」が主であるからだろう。

 韓国の独立記念館では残虐な日帝植民地史をなまなましく展示し、反日感情を高めている。それに似ているものが中国のハルピンの731部隊記念館などである。最も有名な代表的なものが最近行ってきた南京大虐殺記念館である。南京では日本語は使わない方が良いと言われたので注意しながら観覧した。タクシーの運転手さんは韓国人か日本人か気になるらしい。案内者と私は韓国語を使っていて、ある運転手からは日本人であれば乗せないとも言われた。南京では日本人については悪い感情を持っているという。

 南京には青空がない。案内者になぜ曇っているのかと質問すると「空気汚染だ」という。しかし汚染を気にする様子はなく、気にする人は少ないようである。中国は汚染問題より豊かな経済国家を何より優先しているのが目に見える。上海を往来する高速電車の窓から見える汚染空を見ながら息苦しさを感じ四日間の旅程も長すぎるような気持ちになった。

 念願だった南京大虐殺記念館を観覧する日は晴れて暑い日であった。日本軍による虐殺記念館、「30万人虐殺」という標題、記念館の入り口に入ったらすぐ暗い。日本軍の行進の映像が映った。そこから見降ろせる地下への階段を降り、展示が広がる。館内は終始暗い。それは展示の方式でもあり、見る人の心を暗くする。資料の中身はほぼ日本のものであった。日本の資料による展示、日本の歴史をここで勉強することになった。映像、道具、新聞記事などあくまでも日本が主役、日本軍は完全に悪役であった。

 私の視線を引いたのが写真とともに復元されていて、体験できるような日本軍慰安所であった。その入り口には「支那美人」と書かれており日本軍を呼びよせる写真が掛っている。その室内にも入ってみた。私は映像を見ながらイヤホンで日本語解説を聞き、キャプションを読みながら許される範囲内で映像や写真を撮り、録音もしながら、3時間半の時間をかけて見た。

 残酷な日本軍、日本人は絶対的に悪い、心痛い心情である。展示は最後に、平和都市としての南京を訴えている。展示から平和を訴えることは、ナンセンスでもあると感じた。広島の平和記念資料館も、原爆被害の残酷な展示のみで平和都市を訴えているのは、どういうことだろう。国立の博物館や記念館が、主張のための武器化していると痛感した。


  チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、広島大学教授を経て現在は東亜大学・東アジア文化研究所所長、広島大学名誉教授。