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2020/09/11

<随筆>◇洪蘭坡とソプラノ歌手・金天愛◇ 呉 文子さん

 友人から分けてもらったホウセン花の種をまいて20年以上にもなる。今年は長雨のせいか害虫が増殖し精彩を欠く。仕方なく根こそぎ引き抜きながら、ふと「ボンソンファ(鳳仙花)」の作曲者・洪蘭坡(ホンナンパ)の生家・水原を訪ねた20数年前の夏を思い出していた。

 四方を低い山に囲まれた水原には華城と呼ばれる名のように美しい城があり、おりしも華城築城200年記念フェスティバルの最中で賑わいを見せていた。山道を分け入り「洪蘭坡先生 生家」の道順を示す標識を見つけたものの、迷いに迷ってやっと辿り着いたときは出発から2時間も経っていた。

 藁ぶき屋根に低い垣根をめぐらしただけのつましい佇まい。正面に蘭坡の写真が掲げてあり、土間を挟んで左右に一間ずつの部屋がある草家三間。蘭坡が活草里で生まれたのは、国号を大韓帝国(韓国)に改めた翌年(1898年)で、ほどなくして日露戦争が勃発、その翌年には


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