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2021/06/04

<随筆>◇思春期を描いた秀作『ミカンの味』◇金 珉廷さん

 『82年生まれ、キム・ジヨン』で知られる作家チョ・ナムジュは、テレビ番組の構成作家時代に培った取材力を活かし、徹底したインタビューと統計を用いて作品を書くことで有名である。その結果として実験的に生まれたのが『82年生まれ、キム・ジヨン』である。新作『ミカンの味』(朝日新聞出版)には女子中学生の日常が描かれている。取材と統計がベースになっている青春ものだ。

 静かな性格で勉強も運動も普通のソラン、勉強はできるが母親に構ってもらえず寂しさを抱えているダユン、BTSのファンでツンデレなヘイン、心優しいウンジ。4人の少女はそれぞれの悩みを抱えながらも、支え合って日々を過ごしている。それぞれの少女の家族構成もいまどきだ。

 4人家族のなかですくすく育っているソラン、病気の妹がいるダユン、父の事業の失敗で家計が苦しいヘイン、両親が離婚して母と祖母と3人暮らしのウンジ。ディテールが優れており、家族構成や性格の違いが生み出す苦悩やすれ違いが鮮明に描かれている。

 4人は仲がいいのだが、もやもや、嫉妬、傷つきなど複雑な感情があり、微妙な距離感が伝わってくる。思春期、または青春真っただ中の繊細さや不安、友情を見事に描き切った秀作だ。日本の中高生たちにぜひ読んでもらいたい。

 人間関係は実に難しい。大人になってもそうである。そのことを初めて理解するのが、ちょうどここに出てくるソランらの年ごろかもしれない。


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