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2012/10/19

<Korea Watch>サムスン研究 第20回 グローバルブランド戦略                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

  • サムスン研究 第20回 グローバルブランド戦略

◆信頼関係の構築から高い次元の価値創造へ◆

 ブランド価値とは、生産者と消費者の信頼関係から生み出される無形資産である。物々交換の時代を想像すると、両者間に信頼関係が成立していなければ、取引は成り立たないはずである。貨幣が庶民にまで流通した近代以降、人々はあらゆる取引の過程でブランド価値を意識か無意識のうちに理解していた。

 今日のブランド価値は複雑な要素から構成されている。サムスンのグローバルブランド価値は、企業発展力、製品開発力、サービス力から成り立ち、それらの中でもグローバル人材の育成、グローバルスポーツマーケティング、高級デザインなどが重要な基本要素となっている(図表)。

 2011年10月に発表されたインターブランドによる世界100大ブランドでは、サムスンのブランド価値は234億㌦で、2ランク上昇して17位となった。

 00年に初めて100位圏内に入ったことを思い起こせば、ここ十数年の目覚しい跳躍がうかがえる。

 ライバル企業のアップルが9段階上昇して8位、ノキアは6段階落として14位であった。ノキアの凋落は、スマートフォンへの切り替えの遅れ、デザイン競争への力不足、基本ソフトの選択ミスなどに起因する。

 00年以降のサムスンのブランド戦略は、まず先進国で認知度を上げることに焦点があてられた。映画「マトリックス」で映画スタッフとサムスンが共同でデザインしたマトリックス・モデルの携帯電話を販売し、これをキッカケに米国での知名度を大きく引き上げた。

 その後、イタリアのアルマーニやベルサーチなどによるデザインの携帯電話を相次いで発表し、先進国での話題をさらっていった。さらに12年6月から、イタリアのグッチと共同で「グローバルデジタルショップインショッププロジェクト」へと発展している。

 サムスンが先進国でブランド価値を押し上げているのは、ギャラクシーSシリーズという洗練されたデザインのプレミアム製品の存在である。スマートフォンの場合、個人が選択して購入するのであるから、一人一人の価値判断の集合体がグローバルブランド価値となる。ギャラクシーSシリーズを使用している顧客は、他の家電製品を選択するとき、あるいは半導体のようなB to B製品でも、サムスンブランドを想起し親しみを覚えるであろう。この時点でサムスンは、他社より優位に立つ。

 新興国では、先進国と同じプレミアム製品の投入と現地に溶け込む文化マーケティングを基本としたブランド戦略に特徴がある。サムスン電子は、先進国で人気のある先端製品を途上国でも店頭に並べるとともに、現地化した製品を研究開発するR&Dセンターを新興国に設立し、現地の市場特性に合う商品を展開している。中国市場を例にとると、LEDテレビ、スマートテレビ、ギャラクシーS3などの先端製品を米国市場とほぼ同時販売をすることで、中国人の好奇心と購買意欲を刺激するとともに、中国人の嗜好に合致した中低級品の液晶テレビや携帯電話まで多様な品揃えで展開している。この結果、12年に中国ではサムスン電子が中国でノキアを抜いて携帯電話のブランドパワー1位を占めた。

 現在サムスン電子は、世界の消費者と信頼関係を構築した段階から、より高い次元のブランド価値創造を目指している。先端製品の開発力とブランドイメージの向上を両輪として、すべての事業を高収益体質に転換していく戦略で動いている。

 ギャラクシーに大きく依存したブランド価値から、数多くの製品がサムスンのブランドパワーを持つことで、ブランド価値を高度なレベルに引き上げようとしている。ここでもサムスン グループのブランドを一元管理している未来戦略室(崔志成室長/6月7日から金淳澤氏の後任)の役割は大きい。