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2013/03/01

<Korea Watch>サムスン研究 第37回 日本企業への示唆③                                                 日韓産業技術協力財団 石田 賢 氏

◆「組織づくり」―スピード経営の源―◆

質問1 サムスンでは組織改革をどのように実践していますか?

 1.役員クラスには権限が委譲されていると同時に毎年の成果を厳しく求められていることが、組織に緊張感を生んでいる。業績が悪ければボトム10(下位10%)の役員クラスはリストラの対象になる。リーマンショック後の厳しい経営環境のときには、ボトム20(下位20%)の役員がリストラされ、残り80%の役員の3分の2が配置転換という史上最大の「総入れ替え」を実施している。

 ②サムスングループ全体では、李健熙会長をトップに社長団協議会、未来戦略室のブレーンが投資、人事、ブランド管理などを一元管理していることも、組織再編などの意思決定にスピードをもたらしている。

 ③具体的な事例としては、2012年4月にLCD事業部を切り離し、同時にサムスンLEDを吸収合併、12月にはサムスン光通信も吸収合併するなど、サムスングループ全体の組織改革と人事異動を同時に推進できることが、組織改革にスピードをもたらしている。

質問2 未来戦略室の活動というのはどのようなものでしょうか?

 ①未来戦略室は、会長秘書室の設置にはじまり、一時置かない時期もあったが、名称を変えながら今日に至っている。

 ②12年6月7日にサムスン電子CEO崔志成氏が未来戦略室室長に就任した。未来戦略室には、「経営革新支援チーム」「戦略1チーム」「戦略2チーム」「コミュニケーションチーム」「要人支援チーム」「経営診断チーム」の6つのチームから構成されている。発足当初は、各チーム合わせて150名のスタッフを擁していた。

 ③「経営革新支援チーム」は財務担当、「戦略1チーム」はサムスン電子と電子関連系列会社の業務調整・事業支援の担当、「戦略2チーム」は電子系列会社を除いた金融・化学・サービス関連企業の業務支援を担当、「コミュニケーションチーム」は広報と企画を担当、「要人支援チーム」は系列会社の要人をグループ次元で調整、「経営診断チーム」は監査業務を担当している。

質問3 何が引き金となって、サムスン経営は方向転換できたのでしょうか?

 ①1997年のIMF危機を契機として、政府主導により韓国財閥の重複投資を清算し、選択と集中をもたらしたことが挙げられる。この時点では外部要因でサムスンは自動車事業を手放すなど、グループの事業を集約した。

 ②サムスン財閥存亡の危機に際して、これまでの日本的経営に学ぶ姿勢から、GEに代表される欧米式経営に大きく転換していった。GEの人事、財務、マーケティング手法などを導入するにあたり、10年前にはGEの幹部をソウルに招き、直接ノウハウが伝授されている。90年代半ばごろまでは韓国財閥全体に労使問題が重要課題であったが、IMF危機を転機に経営システムは、成果主義を軸とした欧米式に大きく舵が切られていった。ただし最近では欧米の経営スタイルをそのまま導入しているのではなく、韓国社会や文化に配慮しながら修正を加えている。

 ③オーナーにより絶えず危機意識の言葉が情報発信されている。これはカリスマ性のあるオーナー経営者だから可能な側面もあるが、93年6月の「フランクフルト宣言」(役職員1000人を呼び集めて500余時間超える熱弁をふるい、「妻と子供以外みな変えろ」「一流にならなければ滅びる」等の発言)などがその代表である。12年の新年の挨拶で李会長は「今サムスンを代表する多くの製品が10年内に消えるだろう」と発言している。

質問4 サムスンだけが韓国社会で抜きん出た財閥なのでしょうか?

 ①サムスングループは、会長・社長をはじめ親族が主要ポストを占め、しかも大株主であることからオーナー経営と呼ばれている。この意味では韓国の多くの財閥に共通した所有と経営が分離されていない、経営の近代化が未熟な組織という一面も残されている。

 ②しかしサムスングループの系列会社81社を血縁関係だけでコントロールするのは不可能であり、特に2000年以降、専門経営者が多く育ってきている。多くの専門経営者を育ててきたということでは、サムスングループは他の財閥と比較したとき突出している。

 ③財閥トップ10(サムスン、LG、ポスコ、SKなど)の売上高合計が、韓国のGDPの50%を越えている。韓国財閥は、産業界のピラミッド上層部に位置し、社会全体の姿ではない。ごく一部の財閥がグローバル企業として脚光を浴びているが、それらを支える多くの中小零細企業という底辺から成り立っており、この構造が韓国の格差社会を象徴している。

質問5 同じ出身校や同郷意識が、組織の中で問題が起こらないのでしょうか?

 ①かつては出身高校・大学あるいは同郷などの結びつきが強かったが、最近は同じ出身校、同郷だからといって出世できるような甘い組織ではない。最近、サムスンでは、地方大学出身者や貧しい子弟を積極的に採用している。

 ②マスコミでは、未来戦略室室長の崔志成副会長と未来戦略室次長の張忠基社長が同じソウル大学校貿易学科出身の先輩と後輩にあることを取り沙汰したが、偶然の組み合わせである。