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2013/05/31

<Korea Watch>経済・経営コラム 第58回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北②                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆躍進するサンムスン、影が薄れる、影もない日本3社◆

 世界の薄型テレビでは2012年、韓国2強と日本3弱が確定した。金額ベースで、サムスン(27・7%)とLG(15・0%)が2強で、2社の合計シェア42・7%は対前年度+4・1ポイント増加した。日本3社は、ソニー(7・8%)、パナソニック(6・0%)、シャープ(5・4%)で、3弱に墜ちた。3社の合計シェア19・2%は韓国2社の半分未満、対前年度で△6・4ポイントも下がった。中国勢が対前年比+2・8ポイント増やして21・8%のシェアだった。日本3社は、韓国勢と中国勢に食いちぎられ、巨額の赤字という大量の血を世界中で流し瀕死の重傷に陥った。13年には中国勢も日本勢を置き去りにするだろう。

 スマートフォンに至っては、いま最もホットなデジタル家電の本流だが、日本勢は辛うじて6位のソニーの他は1社もグローバル・プレイヤーに加われていない。寂しい限りだ。12年の世界市場のサイズは9億台(対前年+28%)。台数シェアで世界1位はサムスン(29%)、次いでアップル(21%)、3位~5位が中国勢3社で4・6%~4・1%だ。ソニーは4%未満だ。16年には市場は14億台に拡大する。日本勢は指をくわえて、大きくなる市場の果実を羨ましく見つめるだけだろう。足元の日本市場でも、アップルとサムスンが42%の台数をシェアしている。

 薄型パネルでの日本勢は、後退というよりも逃げ場がないコーナーに押し込められている、と言える。唯一の例外は、PC、タブレット、スマホ用の中小の液晶パネルで、この分野では日本の2社、シャープとジャパン・ディスプレイがシェア(36%)で世界をリードしている。今後とも急成長するスマホやタブレット向けのビジネス拡大の機会が広がっている。しかしシャープは企業自身の存続が危ぶまれており、パネル事業も赤字である。ジャパン・ディスプレイは日立・東芝・ソニーの中小液晶パネル・ビジネスを統合し、政府系ファンドである産業革新機構が7割を出資して再出発した実質的な国有企業である。収益性はいま一つ。

 テレビ用の液晶パネルを外販して利益あるビジネスにしている日本企業はない。シャープには外販するだけの生産能力が十二分にあるが…これについては次回に述べる。世界では韓国勢が5割、台湾勢が3割、日本勢1割の出荷シェアだ。

 半導体もNAND型に強い東芝を別にして、日本勢はほぼ完敗だ。日本の唯一のDRAMメーカーだったエルピーダメモリ(世界3位)は倒産した。会社の成り立ちがNEC、日立、三菱電機3社の寄り合い世帯で足の引っ張り合いが絶えず、成長戦略や競争戦略の意思決定がまともにできないまま、とうとう白旗を挙げた。日本では、出身会社はもとより、他のどこからも救済の手が伸びてこなかった。アメリカのマイクロン・テクノロジーが僅か2000億円で買収し再建に向かうことになった。韓国のサムスン(50%)、SKハイニックス(24%)の2社に、マイクロン・エルピーダ連合(25%)が挑む構図である。

 マイコン・メーカーであるルネサスエレクトロニクスも倒産した。自動車や産業機械の動きを制御するマイコンは、それ無しには日本の自動車や産業機械のメーカーが成り立たない。世界一で5割のシェアを占める「日本の宝」とも言える技術力・製品開発力を持った会社が、8年連続の赤字で両手を上げた。顧客の要求を満たすためにテーラー・メードでマイコンを造り続けたという。技術者冥利には尽きるだろうが、採算を度外視する経営をよくも8年間も続けたものだ。信じられないが本当のことである。

 ルネサスもエルピーダと同じくNEC、日立、三菱電機の寄り合い世帯で、スピード経営ができず、採算を度外視しても顧客に忠実な下請け体質を引きずっていた。そのルネサスも、産業革新機構が7割の株式を取得して1900億円を出資し、ジャパン・ディスプレイ同様、実質的に国有化した。そして、自動車メーカーなど顧客企業8社が約6%の116億円を出資する。収益が出るビジネス・モデルへの転換が必須だ。小型リチウムイオン電池。スマホ、タブレット、携帯電話向けだが、08年には日本勢(パナソニック、ソニー、日立マクセル)が世界の50%のシェアを持ち、中でもパナソニックがダントツだった。

 しかし、その後スマホ市場が急拡大して地殻変動が起きた。サムスンのスマホ向け生産に特化したサムスンSDIが25%でトップに躍り出た。日本に有力なスマホ・メーカーがなく、外販頼りのパナソニックは大きくシェアを失い21%で2位に下がった。ソニーも携帯電話ビジネスの後退とともに8%に下がった。国別でも、日本勢3社計で32%となり、LG化学を加えた韓国勢2社が41%で日本を追い抜いた。中国勢が20%まで躍進した。技術が標準化されてきた現在、スマホの世界市場でサムスンが世界一を続けるあいだ、韓国勢の電池分野での優位が益々拡大するだろう。そして、中国勢が低価格で猛然と追い上げ、日本勢を追い抜く可能性が高い。