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2013/06/14

<Korea Watch>経済・経営コラム 第59回 デジタル家電、韓国の覇権と日本の敗北③                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆パナソニックは復活するだろうか◆

 パナソニック。一昔前は家電の世界王者だった。王者のプライド、超優良な財務力、世界一のプラズマパネル技術への強い自負をもち、薄型テレビで世界の覇権をかけて、自信満々でサムスンに対抗したが、逆に何倍もの力で跳ね返された。2011年と12年の累計で1兆5370億円の巨額赤字を計上した。企業の屋台骨が折れそうな超重量級の赤字である。超優良企業をここまで貶めた経営責任を、最高経営者一人に押し付けてしまえば済むことなのだろうか。プラズマテレビの失敗が決定的なダメージになった。13年に入って、薄型テレビの6・5%(約1350万台)のシェアしかないプラズマテレビからの撤退を検討しているという。撤退を言明してはいないが、早晩そうせざるを得ないだろう。

 パナソニックのプラズマテレビでの世界シェアは26%~30%だった。しかしシャープが液晶の技術革新で大型液晶パネルを開発し、その技術が韓国や台湾にも拡がり、液晶パネルの方が消費電力が安く一段と薄いなどの理由で、プラズマは急速にマイナーになった。パナソニックがそのことを知らないはずはない。

 肝心なポイントは、プラズマテレビが液晶テレビに押され続けたことは周知でありながら、兵庫県尼崎市に5000億円をかけて世界最大のプラズマパネルの工場を建設した。なぜそうしたのか、経営合理的な理由があるとは考えられない。プラズマテレビから撤退すれば、その工場はさながら巨大な廃墟になることだろう。液晶テレビは続けるが、姫路工場でのパネルの生産は大幅に縮小して必要な量の7割強を、ライバルのLGなど外部から調達する。利益が得られない価格競争から脱却するが、テレビ事業そのものも縮小し、ピーク時の5割以下の売上となるだろう。

 現在は不採算事業の切り離しや継続事業の縮小均衡、組織再編成や社員のリストラなどの最中だが、今後の成長戦略が見えない。どのように企業を再建するのか、収益の柱はなにか。白物家電事業だけは健全だ。自動車部品や航空機システムなどのB2B分野に今後は収益の源泉を求めるという。デジタル家電をマイナー事業にして、白物家電とB2Bビジネスを核にした企業として生き残ることは可能だろう。しかしそれで、日本を代表する電機企業の経営の屋台骨を修復し、世界中の人々から再び「好まれ受け入れてもらえる」価値あるグローバルブランド、パナソニックの栄光を取り戻せるとは思えない。

 次世代のテレビと期待がかかる有機ELテレビのパネルを、つい先ほどまで共に天を仰がずのライバルだったパナソニックとソニーが共同で開発している。背面から光を照らす従来のパネルと違って、電圧をかけると自発光する有機ELパネル。画像が鮮明で消費電力が少なく、テレビが更に薄くなる。この分野の大型化と製品化でLGが先行しサムスンが続いている。日本勢はキャッチ・アップする側だ。

 パネルの製品化と大量生産化は、これまでの単独(パナソニックやシャープ)による生産工場への過剰投資の失敗=大赤字化を避け、また単独での投資に耐える体力を失っているために、パナソニック、ソニー、産業革新機構の3社による共同出資会社が手がけることになった。今後の有望株である有機ELパネルも、国の支援なしには生産できないわけだ。最終製品である有機ELテレビは、各社が自社のブランドで商品化し、14年を目途に自社の販売網を使って国内外で発売することになる。

 パナソニックであれソニーであれ、グローバル市場での販売マーケティングの競争力が大いに弱くなっている原状では、各社単独で有機ELテレビを販売しても、技術ベースの性能や機能の優劣はほとんどなく、早晩サムスンやLGの圧倒的な資金力やマーケティング力に「蹴散らされる」と半ば以上確信している。シャープを加え、3社が恩讐を超えプライドを捨てて「日の丸連合」し、デジタル家電の商品開発と販売マーケティング専用の会社を設立するくらいの、意識とマーケティングの破壊的イノベーションが必要だ。そして、一つの目標、有機ELテレビの世界の覇権を獲得する、に向けて邁進できる組織体制を創りあげてもらいたい。

 使用するブランドは3社の「パナソニック」「ソニー」「シャープ」で、各ブランドが強い国や地域に分けるとか、ポジショニングを変えて同一国や地域で売り分けるとか、いずれであれ一つの「日の丸連合」会社が統括する仕組みを考えられないか。この複数ブランドによるマーケティングでの最大の成功例の一つが、「HYUNDAI(現代)」と「KIA(起亜)」だ。ポジショニングを変えた両ブランドは同じ市場で棲み分けをしながら、現代自動車の傘下で両社ともに躍進し、世界中で日本のトヨタ、日産、ホンダを苦しめている。韓国の成功例を、素直に・謙虚に学び、日本のデジタル家電での強みに進化させると良い。