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2014/06/13

<Korea Watch>経済・経営コラム 第67回 日韓の経営哲学を考える㊦                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆イノベーションと変革経営の連続による成長◆

 富士フイルムホールディングスは、2000年―11年、デジタル化の進行でフィルム市場が最盛期の5%に縮小した。しかし、売上高は1兆4400億円から1・5倍の2兆2000億円に成長した。その売上高構成比は、写真フィルムなどが7800億円から3300億円に減少したが、メディカル・化粧品・フラットパネル用光学フィルムが6600億円から8800億円に増加し、ドキュメント(06年、富士ゼロックスを連結子会社化)が9500億円積みあがった。

 デジタルカメラが主流になり写真フィルムが不要になった。しかし、技術を棚卸して見える化し、既存のフィルム技術と技術イノベーションをかけ合わせて、例えば、ナノ技術・抗酸化技術・分散技術・コラーゲン技術で化粧品に、光学技術・精密機械/電子工学・画像処理技術でミラーレスカメラに進出した。自社独自の顧客価値創造に必要なのは、世界一へのこだわり、そして「叡智・勇気・創造・希望」を持った技術開発・製品開発の実践である。日々、変革と前進をつづけるのみだ。写真フィルムで世界一を争ったコダックが12年に倒産した。一方は飛躍して存続し、他方は再建途上にある。両社の多角化の幅と深さが明暗を分けた。

 ビジネスの大胆な転換をリードした古森の経営哲学には、武士道の精神が色濃く生きているし、経営実践は、不易流行を徹底していることが読みとれる。古森にとって「経営は、真剣による斬り合い」と同じで、「経営者に負けは許されない。経営者の負けは会社の負けだ」。さながら戦国武将の発想である。日本経済の停滞や国際競争力の劣化にも強い危機意識を持っている。グローバル市場で戦い抜く力と勇気をもう一度日本人が取りもどさなければいけない、と強く主張している。

 87年に第二代目の総帥になった李健熙が率いるサムスン財閥の業績は、12年現在、企業価値は303兆ウォンで87年の303倍、総売上高は385兆ウォンで43倍(韓国のGDPの約30%に相当)。中核企業がサムスン電子で、半導体、薄型テレビ、スマホなど20品目で世界一のシェアを獲得している。その売上高は約20兆円で、日本のパナソニック・ソニー・シャープ3社の合計の約16兆円より高く、純利益は約2兆4000億円で、日本3社は合計1兆4000億円の最終赤字だった。


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