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2017/09/26

<Korea Watch>揺らぐサムスン共和国 第43回                                                              国士舘大学経営学部講師 石田 賢 氏

◆経営空白の長期化と積弊清算のジレンマ◆

 2017年5月に発足した文在寅大統領の経済政策を列挙すれば、財閥改革、働き口の創出、公共部門の非正規職の正規職化、実効税率の引き上げ、来年度の最低賃金を16・4%引き上げ時給7530㌆、20年までに1万㌆などである。サムスン財閥に係わる政策としては、トップ一族による専横防止・支配構造の改善、循環出資の解消、そして働き口の拡大などである。17年7月に発表した「国政運営20大戦略、100大課題」によれば、文新政府は財閥改革について「総帥一家の専横を防止して透明で健全な経営文化を確立し、大企業集団総帥一家の支配力強化と不当な経営継承を遮断し、総帥一家による私益詐取行為と不当内部取引の根絶、金融系列会社を通した支配力強化の防止など、金融と産業の分離原則を遵守する方針」とした。

 財閥総帥一家の持分が30%以上を保有している上場企業(これにはサムスン物産が該当、李副会長17・08%及び一族関係者の合計で31・4%)は、財閥全体に係わる最終意思決定などの支配権を牛耳ることで、20%以上を保有している非上場会社に不当に低価格を押し付けて総帥一家がコントロールする上場企業に利益を蓄積し、さらにグループ系列会社によるインサイダー取引を通じてオーナー一族の持分比率が高い系列会社に利益を吸い上げる仕組みを作り上げるなど、経営権継承のための資金を蓄えてきた。新政府は、不当な経営継承を断ち切るために、これらへの規制と処罰も強化することを表明した。さらに保険業監督規定の改正が、循環出資を断ち切る切り札であり、これは現行の保険業法規制をすり抜けているサムスン財閥を直撃する。現行の保険業法規制によれば、保険会社は系列会社の株式や債権を総資産の3%以上保有できないが、問題は保険会社だけ資産の算定基準が市価ではなく、取得原価で規定していることである。

 つまり、サムスン生命が保有するサムスン電子の株式価値は、市価で約25兆㌆であるが、取得原価は5690億㌆にすぎず、サムスン生命が保有する株式は、サムスン電子総資産の3%以内を簡単にクリアする。市価の3%基準に改定されれば、サムスン生命は、サムスン電子の株を市場へ大量に放出しなければならず、株価が暴落することになろう。

 文政権が財閥改革にも意欲的な姿勢を示している中、ソウル地方裁判所は8月25日、サムスングループの三代目・李在鎔副会長に対して、14年の防衛産業売却から16年のサムスンバイオロジックス上場まで一連の事案が、いずれもサムスングループ支配権の「継承作業」であったと判断し、賄賂及び財産国外逃避などの疑惑も認められるとして、懲役5年(求刑懲役12年)を宣告した。弁護団は直ちに控訴しているが、一方の検察も刑が軽すぎるとして控訴しており、


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