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2017/02/10

<Korea Watch>経済・経営コラム 第76回 朴大統領弾劾の本質は何か㊦                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。

◆不正義・不公正断とう◆

 2016年の年末のソウルに10日間滞在して、街中を歩き、観察を続けた。人々は落ち着いて日々の暮らしをしているし、夕暮れになれば行きつけの食堂街は焼酎つきの食事を楽しむ男女でにぎわっていた。聞き耳を立てると、焼酎を酌み交わしながらの会話の話題は、大統領と崔順実(チェ・スンシル)とのスキャンダルと、次期大統領のプロファイリングが中心のようだった。接待制限法が施行された最初の年末で、高級店の忘年会客は少ないという。罷免にしろ、自主辞職にしろ、朴槿惠大統領の退陣の道筋が決まり、国民の政治への関心は次期大統領の候補者選びに進んでいる。

 一方、ソウルの中心部は、今でも土曜日になると多くの人たちがデモ(ローソク集会)に参加している。過半数は、崔順実の国政への介入を容認した朴大統領が許せないという純粋な怒りから退陣を求めた人たちだ。彼らは親米・対日協調で親北ではないが、かといって次期大統領の候補者を特定できないでいる。

 一方では大統領退陣を求める参加者をあおって、親北・反日・反米の次期大統領を選出しようとする勢力がある。彼らは朴大統領が実現した日本との「慰安婦問題の不可逆的な合意」(15年12月)及び「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の合意」(16年11月)、そして対北朝鮮の「THAAD(高高度ミサイル防衛システム)の在韓米軍による韓国配備の決定」(16年7月)を破棄、延期、または見直しを主張している。それが反米や反日愛国のポピュリズムと結合して、政府間の合意を破棄するのが正義だとの世論が形成されつつあるという。

 朴大統領の弾劾のいきさつと本質を考えてみたい。それが「ふさわしい次期大統領」のプロファイリングに役立つと思うからだ。朴大統領は野党やマスコミから今、韓国経済の出口が見えない不況を放置して、少数の勝者と大多数の敗者の格差を一段と広げた無能な政治家だと非難されている。確かに、サムスンや現代自動車などは海外で大躍進しシェアを大いに高めたが、国内雇用の圧倒的大部分を担っている中小企業の業績は一向に良くならなかった。就任当時の公約だった中小企業の育成と雇用の創出はかなわなかった。大企業への依存度をますます高めた4年間だった。

 しかし就任から3年間の外交では、①中国への傾斜政策、つまり経済の依存と北朝鮮対策への協力期待を強め、②安全保障はアメリカ依存を続けるバランス外交を志向し、そして③慰安婦問題や歴史認識では日本が屈服するまで強烈な反日政策を続けるとした。この3つの外交政策は国民から強い支持を得ていた。大統領の支持率は50%前後だった。

 安全保障面では日米の強い懸念を生み、日韓関係では深い溝を掘ってしまったが、韓国民主化の二大リーダーである金泳三(キム・ヨンサム)・金大中(キム・デジュン)両元大統領の当初から3年間と同等程度の支持率50%であり、盧泰愚(ノ・テウ)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)・李明博(イ・ミョンバク)の3元大統領の30%前後をはるかに凌いでいた。15年の後半からの朴政権は、日米との安全保障の連携強化へ舵を切り、対北朝鮮の「THAAD」、日本との「慰安婦問題」や「GSOMIA」の合意を次々に行った。THAADの配備に反対する中国の韓国への経済報復が始まったが、朴大統領の支持率は40%前後で安定していた。

 大統領への支持率が急落したのは、


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