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2001/10/26

<韓国文化>書評

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韓国経済の解剖 松本厚治・服部民夫編著

 NIES(新興工業経済地域)の優等生とたたえられ、「先進国クラブ」といわれるOECD(経済開発機構)の仲間入りを果たした韓国は、その直後に通貨危機に陥り、IMF(国際通貨基金)の支援を仰いだ。「漢江の奇跡」といわれる高度成長を達成し、途上国の手本となってきた韓国経済がなぜつまずいたのか。

 本書は、経済・経営だけでなく、工業技術、文化人類学といった幅広い視点で、それぞれの研究者が韓国経済の構造的な問題を多角的に分析したもので、通貨危機の根本原因にメスを入れ、韓国の挫折はなぜ起きたのかを徹底解剖している。

 服部民夫氏は、韓国の発展形態を「組立型工業化」と規定し、機械や中間財を海外から輸入し、国内の安い労働力と政府の支援で量的発展を追求してきたが、技術の発展や人件費の上昇といった環境の変化に耐えられない脆弱性をはらんでいたと指摘。

 松本厚治氏は、韓国の発展戦略を「日本複製」という視点からとらえ直すべきだと主張する。

 また、独自の視点から20世紀初頭に世界で最も豊かな国といわれながら経済の破綻をきたしたアルゼンチンと韓国を比較した佐野誠氏の「韓国は雇用と金融で短期間にアルゼンチンの失敗を反復した」との指摘は興味深い。

 技術の自律的発展基盤の脆弱性、変化に抵抗する財閥、産業化の制約となる儒教的文化など、韓国が抱える課題は多く、先進国型経済への移行にはなお紆余曲折が予想されると本書は指摘している。(文眞堂、A5判、353ページ、3200円)


世界のひびわれと魂の空白を 柳美里著

 在日3世の芥川賞作家の評論集だ。94年から2000年までに発表されたエッセイや評論などを収録したものだが、文芸評論家らとの論戦の文章は、鋭い批評眼と歯に衣着せぬ徹底した追及が際立っている。

 著者はそれを「私は怒っている。怒りという感情を土台にして論理を構成している。拳でペンを握りしめ、一歩も退くまいと両足を突っ張らせている」と書いている。

 最初の3分の1は、「私の血脈」など民族的出自に関するエッセイで構成。父母の故郷である蜜陽(ミリャン)を訪れ、自分の名前・美里(ミリ)の由来を知る。1936年のベルリンオリンピックのマラソン覇者・孫基禎と初めて会い、自分の祖父が孫氏と最大のライバルであることを知る。

 次の社会時評的文章は、性、いじめ、犯罪などに鋭く切り込み、その原因を探し出そうとする努力に真摯さが感じられる。

 残りの3分の1以上は論戦だ。特に文芸評論家の福田和也氏の非難・批判に対する反論は妥協を許さぬほど徹底的であり、かつてロシア革命を成功させたレーニンが「人民の友とは」「何をなすべきか」などの書で党内におけるメンシェビキを「日和見主義」と厳しく批判したような筆致だ。
 「福田氏のようのお坊ちゃんとは違って筆一本で食べている」著者にとって、「小説を書くという行為は、個人的な聖戦である」という決意と気迫がある。

 東京地裁で出版差し止め判決が下りた「石に泳ぐ魚」などをめぐる論戦では、ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎氏、朝日新聞が槍玉にあがった。刺激的な1冊だ。(四六判、250㌻、1400円)


新時代へのキックオフ 仮野忠男著

 開幕まであと半年余りとなった韓日共催によるサッカーW杯。しかし、そもそも共催はどのようなプロセスを経て決まったのか、その詳細を知る人は少ない。

 開催の2002年より13年もさかのぼる89年、ワールドカップ誘致史上、例をみないほど早い招致活動立ち上げをした日本だったが、米国大会(94年)アジア最終予選のイラク戦であと一歩のところで本戦進出を逃したあの「ドーハの悲劇」、米国大会が3大会連続4度目の出場となる実績をひっさげての韓国の招致表明、FIFA(国際サッカー連盟)副会長選挙での敗北など、3つの衝撃が日本の単独開催の行方を揺るがし始める。

 最初は勝算なしともいわれた韓国招致は、国家を挙げての総力戦となり、日本への競争心が、韓国側を勢いづかせた。その後、両者の招致合戦は熾烈を極めていく。

 そしてFIFA内部の権力抗争が、共催への伏線を作っていく。4半世紀にわたり会長として君臨し続けた南米出身のアベランジェとこれを批判する欧州勢との対立構図は、アベランジェが日本支持を公言していたこと、韓国サッカー協会会長の鄭夢準氏がFIFA副会長としてこの対立を内部でじっと見ていたことにより、「アベランジェ・日本」対「欧州勢・韓国」という図式と化す。

 やがて単独開催は招致に失敗した方に感情的しこりを残すなどの理由から共催案が浮上してくる・・・。

 元新聞記者らしい綿密な取材で共催に至る経緯を検証、共催の真の意味を考えさせる好著といえよう。(角川書店、四六判、257ページ、1500円)