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2002/07/05

<韓国文化>日常生活・自然界テーマに出色のできばえ 韓国現代写真展

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    「ジフンの家で」 (李 宣民)

 「人(サラム)・風(パラム)~韓国現代写真の地平~」が、埼玉県立美術館で今月28日まで開催されている。2002年サッカーワールドカップの韓日共催大会開催を記念した今回の展覧会は、90年代に活躍しはじめ韓国国内ですでに定評のある写真家と、21世紀の韓国写真界を担う若い世代の写真家あわせて9人を紹介するもの。これまで韓国の現代美術を紹介する企画展は何度か催されているが、写真に焦点を合わせた大規模な展覧会は今回が初めてだ。

 韓国では現在、毎月100回を越える写真展が開かれている。数だけでなく、表現の多様性や水準においても目を見張るものがあり、韓国の写真界は今、活気に満ち溢れている。

 しかし、つい15年ほど前までは、このような事態が来るとは誰も予想できなかった。韓国の現代写真史は、韓国が列強外国への門戸開放を強いられた1880年代末から、日本植民地時代を経て、韓国政府が樹立された1945年までの時期を第1期、韓国戦争と1960年代の社会的政治的混乱の時代を潜りぬけ、高度経済成長を成し遂げる1980年代半ばまでを第2期、門戸開放政後、海外に出た留学第1世代が帰国する1980年代半ばから90年代半ばの10年間を第3期、そして、既成の価値観と固定観念に囚われない若い世代が登場し、写真のスペクトラムを全方位に拡散させる90年代半ばから現在に至る時期を第4期として考えることができる。

 現在の韓国写真界では、社会状況、家族、身体、風景など、とらえているシーンは様々だが、韓国のアイデンティティをとらえ直そうとする作品が多く見られる。

 留学第1世代の写真家のひとりである具本昌氏は、ドイツから帰ってきた1985年以来、10年余りの活動を通じて、写真家としての自分の地位はもちろん、現代美術のひとつの位相をなすものとして写真の地位を向上させた写真家の一人。今回は1993年の「グッドバイ・パラダイス」シリーズを展示している。複数のプリントを標本のようにディスプレーした昆虫の写真は、特有の繊細なタッチで表現されており、90年代以降のひとつの流行のスタイルを作った作品だ。

 ペ炳雨氏は1980年代半ば以降、具本昌氏や金壯燮氏らとともに作品活動やグループ展を企画するなど、最も顕著な活動を見せてきた写真家の一人。韓国のあらゆる地域に分布している松の木を素材にした代表作、「松シリーズ」は、人と天を一体と見なす韓国人の伝統的な世界観によって形作られており、モノトーンの抽象画のような作品から、韓国の自然とそこで培われた情緒に対する深い観照と洞察を読みとれる。

 ほかにも具成守、金玉善、李宣民、権五祥ら若い世代の写真家たちの作品を展示している。これら若手写真家たちの関心は、大きな物語ではなく、自分自身のことや、ごくありふれた日常に向けられ、ジェンダーの問題や現実と虚構性についての発言も盛んだ。

 今回の展覧会開催に関わった写真評論家の飯沢耕太郎氏は「芸術・文化の領域においても、日韓交流による相互理解がますます重要になってきている。『近さ』に惑わされず『遠さ』を恐れることなく、もう一度正面から現代韓国写真に向き合ってみたい」と語る。


会期:28日まで、午前10時~午後5時半 
 (金曜日は午後8時まで開館、月曜休館)
会場:埼玉県立近代美術館 企画展示室  
観覧料:一般800円、高大生640円  
シンポジウム:13日(土)午後1時半~4時「韓国写真界の現状」
出席者:金升坤(写真評論家)、飯沢耕太郎(写真評論家)、鄭周河(出品作家)
℡048・824・0111(埼玉県立美術館)


 同展の入場券を10組20人にプレゼントします。住所、氏名、年齢、職業、電話番号、本紙の感想を明記の上、東京本社・読者プレゼント係まで。締め切り10日。