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2003/01/17

<韓国文化>勇気ふるって韓国に学ぶ

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    おぐら・きぞう  1959年生まれ。東京大学ドイツ文学科卒。電通勤務後、韓国留学。ソウル大学哲学科博士課程修了。著書に『韓国は一個の哲学である』(講談社現代新書)など。

 サッカーのワールドカップ韓日共催、韓日国民交流年を昨年無事に終えて、韓日関係は新しい時代に入ろうとしている。今後の韓日関係について、韓国社会を長年研究してきた小倉紀藏・東海大学外国語教育センター助教授に寄稿してもらった。

 もう遠い昔のようだが、昨年はW杯の日韓共催の年だった。率直にいって、この大会が本当に日韓「競催」であったなら、やはり韓国の勝利だったといってよいであろう。サッカーの試合自体はもちろん、サポーターや国民の応援、国全体の盛り上がりを含めて圧倒的に、韓国の方が日本よりもW杯を成功させたのだと、多くの人が認めざるをえないだろう。もちろん日本は日本なりのホスピタリティと優しさで世界の人びとを迎えたが、何しろ「燃焼力」が違った。その勢いが、経済においても持続されているようだ。日本のマスコミもそれを追うのに忙しい。

 『SAPIO』誌(小学館)は周知の通り、韓国・北朝鮮・中国には厳しいまなざしで立ち向かう姿勢を崩さない雑誌だが、2002年6月12日号では「日本再建のヒントを探れ韓国経済『V字回復』の秘密」というスペシャル・レポートを掲載している。

 『AERA』誌(朝日新聞社)2003年1月20日号は、「日本をしのぐか 超『元気』な韓国」という特集を行い、「立ち止まったままの日本と、短期集中の改革を成功させた韓国の勢いの差は厳然としている」とリポートしている。

 ハードランディング路線は是か非か、という議論は尽きないが、何らかの構造改革をしないかぎり、にっちもさっちもいかなくなっている日本経済を救えないのは確かであろう。

 思い出せば、ちょうど金大中大統領が果敢な改革を推進している頃、すなわち1998年7月に、日本では小渕恵三内閣が誕生したのだった。ここで「活躍」したのが「平成の高橋是清」宮沢喜一蔵相である。昭和・平成を通じてケインジアンたることを貫いてきた宮沢蔵相の下で、日本は財政というものいわぬ働き者をジャンジャン酷使しつづけたのである。

 財政というのは肝臓のようなものである。酷使しても酷使しても、無言で酷使されつづける。これに対して構造改革というのは胃への負担のようなものだ。潰瘍を抱えたこの日本の胃は、少し無理を強いただけで、痛みをアピールして大騒ぎをする。大騒ぎされると面倒だから、事をかまえるのが苦手な人は、勢い無言の働き手に最大限の我慢をしてもらうこととなる。しかし、積年の無理がたたり、すでにこの国の肝臓は肝硬変を過ぎ肝臓癌になりかかっている。それでもこの肝臓は、「痛い」と一言いうこともしないのである。

 韓国では、痛い痛いと騒ぎたてる胃に負担を強いた。胃がただれようが、潰瘍ができようが、何とかかんとかだましつつだましつつ、ギリギリまで頑張ってもらうことにした。胃は大いに暴れ、ストライキも辞さなかったが、その分肝臓への負担は抑えることができた。実はこの国の肝臓は、米国産の得体の知れない食べ物を食べて劇症肝炎にかかり、瀕死の状態だったのである。一年後、胃は相当爛れたが、肝臓は劇的に恢復し、それにつれて胃も正常に戻りはじめたのである。

 それに比べて日本は、全身からの必死の血液の供給にもかかわらず、酷使された肝臓の状態はますます悪化した。しかし肝臓を使い続けるしか道はない。使い続ければ道は開くと信じられている。そして胃はどうかというと、潰瘍はよくなるどころかますます悪化し、癌になりつつある。

 すなわち韓国は、国中を大騒ぎの坩堝にしながらも、結局胃と肝臓を同時に治したのに比べ、日本は大騒ぎを避けて事なかれ主義で対処した結果、肝臓も胃もともに悪くしてしまったのである。

 世界一の借金王と自嘲して笑う小渕首相と、断固たる決意で構造改革を推進する金大中大統領。身を挺してでも国家を救うという気概の違いだったのだろう。今年はその正念場の時期だと思う。勇気をふるって、韓国を学ぶことも必要だ。