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2005/01/01

<韓国文化>高円宮妃久子殿下に新春単独インタビュー

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     たかまどのみや・ひさこでんか 香川県の旧家、鳥取滋治郎氏の長女として誕生。中等科まで聖心女子学院で学んだ後、父親の転勤のため渡英。ケンブリッジ大学ガートン・カレッジで中国学や人類学・考古学を学ぶ。84年、高円宮憲仁親王殿下と結婚。(社)いけばなインターナショナル名誉総裁、日本赤十字社名誉副総裁などの他、高円宮殿下薨去後は、殿下が務められた日本サッカー協会名誉総裁などを引き継がれている。2002年5月、韓国政府の正式招待で殿下とともに訪韓。著書の絵本「夢の国のちびっこバク」「氷山ルリの大航海」は韓国語版も出版。

日本の皇族として戦後初めて韓国を公式訪問された高円宮憲仁親王殿下と高円宮妃久子殿下。そのときの体験を綴った「高円宮殿下が見た韓国」(東洋経済日報社刊)が韓日両国で静かな話題となっている。新年に際し、高円宮妃殿下にインタビュー、この本にまつわるエピソード、韓国で強く印象に残ったこと、これからの韓日交流への思いなどをお聞きした。

 ――「高円宮殿下が見た韓国」の反響が広がっています。日本のマスコミ以外に韓国各紙が大きく取り上げていました。羅鍾一・駐日韓国大使も絶賛するなど、関心が高まっています。ロッテホテルでは客室の常備本にするほどです。このような反響をどのように思われますか。

 予想を超える大きな反響にとても驚き、嬉しく思っています。東洋経済日報での連載で多くの方に読んでいただけるということだけで面はゆい気持ちを感じながらも、嬉しい気持ちのほうが大きかったので、一冊の本になり感慨深い思いです。
 ワールドカップの時に訪韓し、その時に新聞で(私たちの)名前をご覧になった読者の方が、本の出版記事を読んで懐かしく思っていただけたらと思います。
 ――韓国マスコミでは、天皇家の人間が庶民と触れあっている姿に注目していました。また、両殿下が豊臣秀吉を海戦で破った李舜臣将軍の銅像の前で記念写真を撮り、「李舜臣将軍一人だけが朝廷に亀甲船の必要性を力説し、改良に力を入れたという点で国民的英雄と讃えられたのが分かった」と隣国の歴史に踏み込んで触れていることにも注目する報道が少なくありませんでした。
 宮様は、韓国で一人でも多くの方とお話をし、触れあうことを大きな目的の一つと考えていました。そのため、機会を与えてくれた関係者の方に大変感謝しています。チャガルチ市場訪問も、大使館の方その他様々な方の支えがあったからこそ実現できたのだと感じています。私たちは先頭を歩くので後ろの状況は分からないのですが、立ち止まった時に振り向くと行列ができていて市場の人には迷惑だったでしょうね(笑)。そんな私たちを、チャガルチ市場の人は温かく迎えてくださり、非常にいい雰囲気を作ってくれたので大変ありがたく思っています。また、市場では魚を売る女性、日用雑貨を売っている女性など、女性の力強さ、生きる力・商売魂を感じました。
 李舜臣将軍の話は、私も本当に勉強になりまして、韓国も日本も長い歴史がある国なので、各々の歴史を学ぶだけで精一杯で、他国の歴史を学ぶ時間は減っているのが実情です。しかし、日本人は隣国の歴史をあまりにも知らなすぎるのではと思うこともあり、これからの歴史教育では、自国の視点だけでなく、他国の視点から見た歴史も勉強していくことも大切ではないでしょうか。私たちは自分の側からしか物事を見ない傾向があります。しかし、歴史上の事件は、突然起こるものではなく両国関係の関わりあいの中で起きるものです。その一つの接点(事件)を通して、そこに至るまでの両国の経緯を見ていき、それ(両国の視点)を一つの歴史として認識していくことが大事なのではないでしょうか。それが、「歴史に学ぶ」ということなのだと思います。
 ――日本のメディア「週刊新潮」は「在日系新聞社から出版」との見出しをつけていました。皇室の方が新聞社に連載することはめったにありませんし、特に1年間にわたる長期連載は例のないことであり、それを掲載したのが在日韓国系新聞社であることに注目したのだと思います。1年間の連載を決意されるに当たって、妃殿下なりの思いがあったと思います。改めてお聞かせください。
 私は、宮様がお撮りになった写真が好きで、それを読者の方が目にすることにより宮様を少しでも覚えていてくれたらという思いがありました。また、東洋経済日報社さんとは、2002年のワールドカップ訪韓前に、殿下へのインタビューを行った縁から始まり、このご縁を更に続けていきたいと思ったので連載を引き受けることにしました。私が連載を始めることが、宮様がおっしゃっていた民間レベルの交流の一助となるのではないかと思ったのも、連載を決めた大きな理由の一つです。
 ――読者からは様々な反応があります。その中で、「高円宮殿下はとても庶民的で好感が持てました。<近くて近い韓国>を願う両殿下の思いが伝わってくるようです」「普段、皇室の方の考えを聞く機会がありません。この本を通じて何を考え行動されているのか、少しは分かる気がしました。皇室と私たちの距離間が縮まったように思えます」という声が多くありました。皇室を庶民に近づける役割も果たしているようです。ご感想をお聞かせください。
 老若男女を問わず、いろいろな方に読んでもらえるのはありがたいですね。特に若い人は、次世代を担っていく人たちなので、彼らに隣国の文化を知ってもらえたのであれば非常に嬉しく思います。
 はじめは宮様の写真に数行の文章をつけるということでしたが、書き進めていくうちにだんだん長くなって、最後にはA4の紙1枚ぐらいにまでなってしまいました。
 私は、公務その他で海外へ出かける時は、必ずメモを取るようにしていますが、今回の連載の時ほどこのメモが役に立ったことはありませんでした。メモを見て分からないところがあるとさらに知りたくなり、大使館の人や、韓国で生活していた日本人シスターに話を聞いたりもしました。ヘテ(善悪を見分ける想像上の動物)やチャンスン(村や寺の守護神)についても間違った情報を書いたら大変なので追加で色々調べたりもしました。今回の連載を通じて感じたことは、世界中どこに行っても人間が考えることは同じで、チャンスンのような守り神がどこの国でもあったり、また同じようなところに置いたりすることを知りました
 宮様は、人と人の交流をとても大事にされていました。私も、国際交流というものは、国境を越えて、人間同士の交流からスタートしていると感じています。それは単純に、「会社や学校で、隣の席の人と仲良くしよう」と思うのと同じことだと思います。仕事を気持ちよくするためには、隣の人と仲良くすごすように努めますよね。それが国家間のレベルになっただけのことで、人と人との触れ合いという意味では全く変わらないものなのだと思います。

 ――修学旅行で韓国に行く学校が増えていますが、ネット上に「この本を今度修学旅行に行く時の参考にしよう」という書き込みがありました。名所、遺跡などの見所が的確に触れられていたからだと思います。彼らが韓国で希望されることはありますか。

 本に書いたことは、全て自分が感心し、興味を持ったことなので、読者の方が共感してくれたとしたら、その点なのではないでしょうか。教育の現場でも、教師が感動し、楽しいと思ったことは子どもたちにきちんと伝わっていくのと同じだと思います。子どもも自分が感動し、興味を持ったことは調べあげていくし、それがずっと印象に残るのではないでしょうか。
 修学旅行で日本の若い世代が韓国に行って様々な興味・感動を感じるのは素晴らしいことだと思います。また、若いうちに他国の同世代の人と触れあうことは、その後の人生で非常に大きな意味を占める出会いになります。
 話は逸れてしまうかも知れませんが、長女が高校の時に、「興味のある国はどこ」と聞いたら、「スウェーデンとスペイン」という答えが返ってきました。普通の高校生が興味を持つ国としては、少し特殊だなあと思っていたら、実は彼女が12歳の時に、英国の英会話学校でスウェーデン人とスペイン人の友だちと仲が良かったためにその答えが出たことが分かりました。
 若いうちは感受性が発達しているので、最初の海外の韓国で様々な経験をしてくるのは、日本の高校生にとって素晴らしいことだと思います。若い頃の思い出は、その後の人生にも大きな影響を及ぼすので、お互いが好印象を持てれば、両国間の友好関係を考えた時にも非常に重要な要素になるのではないでしょうか。長く交流を続けていくと文化的・思考的相違などの違和感も無くなってくるものです。また、人と付き合うのと同じで、本当に仲良しであれば、けんかしても仲直りし、さらに絆が深まるものです。日本と韓国もそういう関係になっていけばいいですね。
 ――両殿下はソウルの小学校も訪問されていますが、両国の子供たちの交流にどんなことを期待しますか。
 学校での歴史教育では、先ほども申しましたが両国ともに自分の側から見た歴史を教えたいという気持ちが強くなるのは当然のことですね。しかし、それを踏まえつつ相手の国の観点からも教えるような教育が望ましいと思います。また、お互いの国の名前を呼ぶ回数が多い教育の仕方が望ましいと思います。両国が協力し合えばアジアの中でどれだけの力になるか、どのような発展がとげられるか、よりプラスになる思考を養ってもらいたいですね。
 昔からの往来があってこそ、両国はこれだけ似ているとか、またその中に相違点があるということを教えていってもらいたいです。小さい子どもであればあるほど、柔軟性、記憶力はものすごいです。小さい頃からの英語教育も大事ですが、隣の国に対する知識はもっと大事なのではないでしょうか。
 
――「百聞は一見に如かず」といいますが、訪韓前と訪韓後とでは韓国に対する見方にも変化が生じたと思います。何か考えが改まったようなことがありますか。

 訪韓する前に、先入観を持たないで行こうと決めていました。「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので、今回の訪韓でもこの言葉を実感することが多かったですね。本で知る韓国と、実際に見る韓国では全く違いますよね。韓国を熟知している人が書いた本を読んで、韓国について知らない人が同じ思いを感じることはできないのと同じです。同じ感情に浸るためには、回を重ねて知っていく必要がありますね。
 宮様は、戦後初めての皇族による韓国訪問ということで、責任を重く受け止めていらっしゃいましたので、自然体で過ごされる中でも常に意識が働いているといったご様子でした。そのような中、街を車で移動していると韓国の方たちが手を振ったり、言葉をかけてくださったりしたことが嬉しい思い出として残っております。また宮様は、韓国をこれからも訪問すること、訪韓の回数を重ねていくことが日韓交流に繋がると強調され、以前からお持ちだった「友好関係は交流を続けること」というお考えを強く新たにされたように思います。

 ――韓国のジャーナリズムや識者の間で今年の韓日国交正常化40周年に当たり天皇陛下の訪韓を推進してもいいのではないかという声が出ています。両殿下の訪韓成功で好ましい雰囲気も醸成されています。どう思われますか。

 宮様が日韓再出発の贈り物として期待を込められた、日韓共催でのワールドカップを中心とする一連の交流活動によって、これまで機会を得ないまま、誰もが取り除かなければならないと思っていた日韓の間にある大きな岩を取り除くことができたかなと思っています。
 宮様は、いつの日か天皇皇后両陛下の御訪韓が実現すると信じておられました。実際には、御日程を調整しながら良い時期に実現すれば、両国にとって素晴らしい歴史の一歩となるのではないでしょうか。
 現在の両国関係を見ていると、民間レベルでの交流が急速に進展し、お互いに温かみを持っている感じが致します。そこに至るまでに、日韓共催ワールドカップの役割が非常に大きかったのではないでしょうか。両国が協力して世界的なイベントを成功させましたので、これがきっかけになって両国の連帯意識が確実に生まれてきているのを感じています。

 ――日本では「冬ソナ」ブームで韓国に対する親近感が驚くほど強まっています。このような友好雰囲気をどうのように感じていますか。
 両国は、環境保全など民間レベルの交流は随分昔からありましたので、志が同じであれば一つになるものだと信じています。ワールドカップが大成功に終わったのも、両国が志を一つにしたからでしょう。
 長女は、お土産に買ってきた韓国のCDを、試験勉強中に聞いていました。歌詞が分からないので、BGMに最適だそうで、その後歌詞を覚えたいから韓国語を習いたいとまで言っていました。
 「冬ソナ」で主演したペ・ヨンジュンさんは、役作りに時間をかけてじっくりと取り組む素敵な俳優さんと聞いています。しかし、「冬ソナ」のキャラクターが一人歩きをしているようで、役者さんの側からすれば、一つの役のイメージが定着してしまうのは、やりにくい面もあるでしょう。日本のファンの大声援ににこやかに応える姿を見ると、えらいなあと思ってしまいますね。
 韓国を訪れる日本人観光客も急増しているようで、(撮影地の)南怡島に家族連れで訪れる姿もテレビなどで拝見しています。どのような形にせよ、人が動くというのは良いことだと思います。韓国の空気を感じ、様々な人々と触れ合い、韓国料理を食べるという経験を多くの日本人がすることで日韓交流はさらに進むのではないでしょうか。
 最近、韓国映画も随分日本で公開されていますが、それを日本人が見に行くのは、やはり韓国人と感情的に似ているところ、繋がっているところがあるからだと思います。繋がっているからこそ、打てば響くものがあるのではないでしょうか。「冬ソナ」ブームで、韓国語を理解したいからと韓国語を勉強するのも良い傾向だと思います。

 ――来年は韓日友情年です。妃殿下は韓国語の勉強にもチャレンジされたといいますが、今年は韓国とどのように関わっていくお考えですか。
 ご縁あって韓国訪問が実現し、それによって韓国について知る機会を与えてもらって感謝しています。宮様がいらしたらもっと違った形で両国のために努めていかれたのではないかと思いますが、私なりにできる限り日韓交流に尽くしてまいりたいと考えております。
 これから未来に向けてさらに交流が進んでいけば素晴らしいと思います。すぐ隣の国ですので、いつの日か私的に子どもたちを連れて訪れたいと思っています。もっとも、大きくなった子供たちは自分たちだけで行ってしまうかもしれませんが(笑)。