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2010/04/09

<韓国文化>「国」を越え、人間同士の交流を

  • 「国」を越え、人間同士の交流を①

                     白 旋又 さん

  • 「国」を越え、人間同士の交流を②

                    多田 淳之介 さん

 今年も韓日の演劇交流が活発に行われている。「劇団印象―Indian elephant―」(東京・杉並)は韓国の若手女優、白旋又(ペク・ソヌ)さんを招いて『匂衣(におい)~The blind and dogs~』を16日から上演する。埼玉県富士見市文化会館キラリ☆ふじみは、4月から新芸術監督に多田淳之介さんを迎え、韓日の俳優が共演するキラリと世界で創る芝居vol・1☆韓国『LOVE The World 2010』を23日から上演する。白さんと多田監督に話を聞いた。

◆言葉の壁越え理解深める 白 旋又さん◆

 ――日本の演劇に出演する抱負は。

 もちろん演劇というのは、場所がどこであれ、似た方法で創作を行っている。しかし、その中でも違いはあり、今回の交流が私の演劇人生に刺激を与えてくれるだけでなく、「劇団印象」にも、日本の俳優にもいい影響を与えるだろうと思っている。セリフは日本語が多く、通訳もいない。しかしながらこの点が、私には演劇というジャンルを越えて、人間を理解するのに大きな力になってくれている。

 結局、言語というのは自分の考えを表す記号に過ぎず、心を見ることが出来る眼は他のところに存在している。

 今回の作品『匂衣』は、人間についての物語だ。「人間くさい」という表現が日本にもあるということに非常に驚いた。日本人と韓国人は似ている点が本当に多いと思う。時間が限られているプロジェクトではあるが、国を越えた人間同士の交流であることは間違いない。

 ――韓国の演劇事情について。
 
 韓国の演劇界はいま、ミュージカルブームだ。創作ミュージカルが流行っている。そしてプロ俳優を目指す多くの新人は、ミュージカル俳優になりたがっている。私も、演劇専攻だった大学生時代にミュージカルの演出をやったことがある。舞台芸術における供給と需要がミュージカル一方に傾いてしまっているという懸念もある。これが今の韓国の現像であるといえる。

 ――韓日演劇交流については。

 私は外国訪問が今回初めて。演劇と演技だけを考え、作品の中の世界と出会う楽しさが何より大きかったためだ。だから、今回の日本訪問で感じることが沢山ある。人間の姿は、国を越えて、どこに行っても人間だからこそ感じさせてくれるものがある。そして非常に似ているように見えるが、異なるところがあり。それをぶつけたり、あわせてみると、とても勉強になる。これからは他の俳優達にもこのような交流を勧めたい。

 ――今後の予定は。

 現在「劇発電所301」という団体で活動をしているが、5月15日から「タイム・タクシー」という作品を再演する。これは、韓国初のSF演劇と言われている作品だ。


◆日韓の俳優で「愛」を表現 多田 淳之介さん◆

 ――韓国の演劇人と交流する契機は。

 2008年にソウルで開催されたアジア演出家展に招聘されたのがきっかけだ。韓国に滞在し現地オーディションで選んだ韓国人俳優と『ロミオとジュリエット』を創作した。僕にとっても、恐らく俳優達にとっても充実した時間を過ごすことができ、この関係を一回だけで終わらせずに今後も続けていきたいと、お互いに思えたことが今につながっている。

 ――昨年秋に『ロミオとジュリエット』を日本でも上演したが。

 俳優達もとても素晴らしく、個人的にも、ある時期の自分の最高傑作であると思っている作品なので、一年越しで日本の観客にも見てもらえたことが嬉しい。

 ――多田監督ご自身の韓国への関心は。

 国際交流は「違い」を感じることから始まるが、日韓交流の場合は「似ている」と感じるところから始まる。歴史も言語も違うのに、「似ている」と感じる点はとても多い。彼らとも言葉以外はほとんど日本人と変わらない感覚で接している。いま、私自身はその「似ている」の先にある「違い」に関心がある。これだけ似ているのになぜ「違う」のか、その「違い」の中に、日韓だけではなく人間の何かが見えるような気がしている。

 ――今回の作品の見所は。

 昨年、韓国と日本国内6カ所をツアーした『LOVE』という作品をベースにしている。セリフもほとんどない作品で、人と人とのコミュニケーション、集団の形成から崩壊を、動きや表情で描いている。説明が少ない分、観客が自由に受け止められるので、同じシーンでも笑っている観客と泣いている観客が混在する不思議な現象が起きる。今回日韓の俳優で上演することで、「愛」そして「世界」について描ければと思っている。

 ――今後の韓日交流について思うことは。

 お互いの文化交流の粋を超えて、共に優れた作品を創作できる段階にあると感じている。今後は日韓共同制作と大きくうたわなくても、もっと当たり前に一緒に活動していければと思う。そして、お互いの作品も両国でもっと頻繁に上演するようになってほしい。両国が一つのマーケットとして成立することは可能だと思うし、将来的には欧米中心ではない、アジアの芸術文化を確立したいというのが夢だ。