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2012/08/10

<韓国文化>白磁に咲く青い花の美

  • 白磁に咲く青い花の美①

     「青花梅竹文壺」京畿道・広州官窯 朝鮮時代・16世紀前半 高35㌢
      大阪市立東洋陶磁美術館蔵

  • 白磁に咲く青い花の美②

         「青花菊花芭蕉文壺」京畿道・広州官窯(分院里窯)
         朝鮮時代・18世紀後半 高40.8㌢ 大阪市立東洋陶磁美術館蔵

 開館30周年企画展「白磁を飾る青―朝鮮時代の青花」が、東洋陶磁美術館(大阪市北区)で開催中だ。白磁にコバルトで青く絵付けをする「青花白磁」は、朝鮮時代に生産が始まり、人々の生活に浸透し、親しまれた。

 青花の「花」とは文様の意味で、韓国と中国では、白磁に咲く青い花というイメージを込めてそのような呼び方をしている。これに対して日本では、染付という。朝鮮半島で青花の器が現れるのは、朝鮮王朝(1392年~1910)の時代だった。

 朝鮮王朝では、建国にともなってさまざまな制度を整備したが、文化面でもっとも注目すべきは、それまで高麗王朝が仏教を尊んでいたのに対して、儒教を国家の政治や倫理の中心にすえ、そのための儀礼も整えようとした。儒教のこの儀礼が、朝鮮における青花の誕生に密接に関係していたと考えられる。『世宗実録』の五礼の部分によれば、儀礼に「青花」の龍文酒海(壺)が使用されたことがわかる。18世紀のものになるが、「景賢堂錫宴図」という朝廷の儀式を記録した絵画がある。ここにも龍文の青花壺が描かれ、王朝の初期にあっても、おそらくこのように龍文の青花が使用されたものと想像される。

 儀礼の器はもともと金属で作られていた。しかし金属不足のために陶磁器や漆器の使用が奨励されるようになり、白磁や青花へと移り変わっていったようだ。
 こうした青花は、もともとは中国産のものを使ったのだろうが、やがて朝鮮半島でも、1450年代の初めごろまでには生産が始まったようだ。さらに1460年代の後半には、王室専用の官窯である「分院」が現在の京畿道・広州に設置され、青花の生産が本格化し、その絵付けには宮廷の専門画員が派遣された。

 初期青花のおもな文様は龍・宝相華・松・竹・梅・葡萄・花鳥文で、なかでも梅竹が多く描かれた。窯跡調査からも、これらの文様は中国・明初期青花の影響を受けたものと思われるが、やがて16世紀になると従属文がなくなり、しかも空白を残しながら、芸術的で清新な香気に満ちた朝鮮王朝特有の青花が展開することとなる。

 16世紀末から17世紀前半にかけて、アジアは大きな変動期を迎えた。中国では明が滅びて清が起こり、日本では織田信長や豊臣秀吉の時代を経て、徳川幕府が成立する。このとき、日本の豊臣秀吉だけでなく清も朝鮮を侵略した。

これによって朝鮮は国力が衰退し、陶業も大きな影響を受ける。とくに、青花の顔料であるコバルトの入手が難しくなり、王室の祭礼用品も酸化鉄で描く鉄砂という技法に変わっていった。

 こうして一時期中断した青花だが、広州官窯・仙東里窯跡(1640~1649年)や松亭里窯(1649~1659年)でわずかだが青花片が出土しており、このころから復活しはじめたことがうかがえる。

 そこには、18世紀前半の金沙里窯に典型的な清楚な草花文や、丸い円で囲む「祭」文が見られ、金沙里の源流が1640年代にまで遡ることを思わせる。

 十七世紀後半になると、清との関係も好転して対外貿易と流通経済が活発になり、広州官窯の運営も安定する。こうしたなか、30年間もつづいた金沙里窯で青花が本格的に生産された。そこでは、きわめて美しい乳白色を呈する釉胎に、淡く簡素な草花文が描かれた。20世紀日本で、「秋草手」の名で珍重されたものだ。

 草花文の出現については、十六世紀前半の申師任堂という女性画家が注目される。その草虫図は一世を風靡し、漆器や陶磁器の文様にも取り入れられたと考えられている。「秋草手」の源流を、こうした草虫図にも見ることができそうだ。
 こうして簡素で清楚な草花文が主流となったわけだが、それは、儒教のもとで倹約を美徳とし、青花さえもぜいたく品とした朝鮮王朝ならではの、独特な寡黙な装飾表現であったといえる。

 18世紀から19世紀にかけては、経済成長と都市文化の繁栄のなかで中間階層が成長した時代でもある。かれらは、家族の繁栄と平安、魔除けの意を込めた室内の装飾として、吉祥的な絵画を求めるようになる。

 こうしたなかから、長寿や子宝を願う吉祥文や民画的な要素を含んだ現世利益的な文様が新しく現れ、十九世紀の工芸全体を代表する表現様式のひとつとなった。これが陶磁器や漆器にもおよぶ。

 その文様のうち、多子を意味する葡萄文や魚文、夫婦間の和合と家内平穏が託された花鳥文、辟邪を行う霊獣としての虎の文様などは中国由来の題材だが、朝鮮の社会のなかで独自に発展を遂げたといえる。さらに朝鮮独自の吉祥文とされる十長生文(日・雲・水・鶴・亀・鹿・松・竹・霊芝・石)もまた、工芸作品のなかでとくに流行した。


■白磁を飾る青-朝鮮時代の青花■

日程:開催中(10月14日まで)
場所:大阪市立東洋陶磁美術館
   (大阪市中央公会堂東側)
料金:一般600円、大高生360円
   *30日まで人数関係なく団体割引
電話:06・6223・0055