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2012/09/14

<韓国文化>伝統的規範からの解放を求める

  • 伝統的規範からの解放を求める

            イースギョン 「翻訳された壷」09年 作家蔵

  • 伝統的規範からの解放を求める②

            ユン・ソクナム 「ピンクルーム」12年 作家蔵

  • 伝統的規範からの解放を求める③

    ジョン・ジョンヨプ 「種」03年 個人蔵

 アジアの女性アーティスト展「アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984―2012」が、福岡市の福岡アジア美術館で開催中だ。同展の意義について、ラワンチャイクン寿子・同館学芸員に文章を寄せてもらった。

◆台頭するアジアの女性アーティスト ラワンチャイクン寿子◆

 「アジアをつなぐ─境界を生きる女たち 1984~2012」が始まった。アジア16カ国・地域と欧米に在住する作家50名による111件204点の作品で、約30年間の軌跡をたどる包括的で歴史的な展覧会である。

 核となるのは、アジアの女性作家が力強く台頭してきた1990年代であり、この時を出発点または転換点として現在も活躍する女性作家を多くとりあげている。背景には、80年代のアジアの経済成長や民主化、70年代以来の女性の地位向上や権利獲得をめぐる世界的な運動、ジェンダー意識の高まりなどがある。

 そうした社会変動に突き動かされるように、強固な家父長制や宗教的価値観などにより制作や発表を左右されることの多かった女性たちが、いっきに伝統的な制約から自らを解放させていったと言える。

 とりわけ韓国は、アジアの中でも女性作家の層が厚く、80年代から社会的なメッセージを力強く発する優れた作家が登場してくる。そのひとりが、韓国の家父長制社会の中で生きる女性の苦悩を、廃木を使って表現してきたユン・ソクナムである。本展には、廃木製の作品に加え、自身を含む現代の女性たちの不安や現実を語る「ピンクルーム」が展示されている。部屋は、一見華やかだが、部屋の住人である女性は、敷きつめられたビーズの床を歩くことも棘のはえた豪華な椅子に座ることもできない。ピンクの部屋は、その美しい見せ掛けとは裏腹に、身動きのとれない女性たちの息苦しさに包まれているのである。

 ユンと早くから親交のあるジョン・ジョンヨプは、八〇年代からフェミニズムの活動家として知られた。つねに働く女性や子育てをする母親に温かな眼差しを注ぎ、九〇年代からは市場で女性たちが売る穀物を描くようになる。本展には、小豆が山のように積まれたり、画面いっぱいに増殖した絵画が出品されている。小豆は、生命の源であり、その増殖は女性自身の豊饒さを意味している。

 一方で、増殖は、女性にとって妊娠や出産という社会の期待に対する重荷も意味する。例えば、イースギョンの白磁の壷の破片を継ぎ合わせた物体において、不格好に増え続ける瘤は、女性が生殖のうえで背負いこむ重圧の一面を伝えるだろう。また、優美に成形された壷から逸脱した物体は、伝統的な美を放棄させるものと作者が語るように、伝統的規範からの解放を、その抑えがたい願望を伝えるものでもある。

 本展には、以上の韓国在住の作家のほか、海外を拠点または出身にする作家も含んでいる。看護師としてドイツに渡った後に作家活動を始めたソン・ヒョンスクは、異国での生活に覚えた違和感をビデオにまとめ、故郷への思いを禁欲的な抽象表現で吐露する。

 30年近い海外生活をおくるハ・チャヨンは、パリの街角を漂うレジ袋やホームレスの人々の生活をビデオに収め、それらに異郷で生きてきた自らの寄る辺無さを重ねる。養子としてデンマークに引き取られたジェーン・ジン・カイスンは、日本の太平洋戦争で若くして屈辱を強いられた慰安婦、生きるために米軍に尽くさざるをえなかったセックスワーカー、そして自らの身の上に重なる海外養子を映像にまとめ、自身と彼女たちのトラウマに向き合う。

 在日3世として東京に生まれたクム・ソニは、瑞々しい感性の映像作品において、日本での差別を含む不愉快な体験を語りつつ、加害/被害の概念を揺さぶる。

 そしてアメリカを拠点とするキムスージャは、韓国の伝統的な布をつなぎ、重ね、縫いあわせた作品により、異なる文化や民族をつなぎ動かそうとする。まさに、彼女たちの作品は、異なる領域の境界に生きるからこそ見いだされたテーマと表現であるあろう。

 本展では、異文化や異民族のみならず、異なる価値観や歴史と現代といった異なる時代など、さまざまな異なる領域を往き来しながら生き抜く女性作家たちの、切実な思いのこもった作品と出会うことができるはずである。

 *巡回展 沖縄県立博物館・美術館=11月27日~13年1月6日、栃木県立美術館=13年1月26日~3月24日、三重県立美術館=13年4月13日~6月23日。


■アジアをつなぐ―境界を生きる女たち1984―2012■

日程:開催中(10月21日まで)
場所:福岡アジア美術館(福岡市)
料金:一般1000円、高大生800円
電話:092・263・1100