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2021/06/25

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 尹汝貞とアカデミー賞助演女優賞   第59回                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 第93回アカデミー賞授賞式で米映画『ミナリ』に出演した尹汝貞(73)が助演女優賞を受賞した

    第93回アカデミー賞授賞式で米映画『ミナリ』に出演した尹汝貞(73)が助演女優賞を受賞した

 『ミナリ』のハルモニ(祖母)役でアカデミー助演女優賞に輝いた尹汝貞(ユンヨジョン)。日本のファンにもお馴染みの俳優だ。舞台は80年代のアメリカ・アーカンソー州の誰も見向きもしない荒地。

 物語は韓国系移民一族の開拓者魂。ジェイコブ家の夫(スティーブン・ユァン)はここを大農園にすると意気込むのだが、妻のモニカ(ハン・イェリ)は、案内された「家」がトレーラーハウスだったことに愕然とする。『バーニング劇場版』で爽やかなマスクの青年として登場したスティーブン・ユァンが、ここでは畑仕事に精を出す夫を演じる。

 夫婦には姉と弟の二人の子供がいて、ヒヨコの尻を見て雌雄を判別する仕事で生計を立ててきた。いつまでもこんなことを続けていても仕方ないと、増加する韓国系移民向けの野菜農園を経営しようと意気込んだのは夫。共働き生活は不可避だが、子供たちの世話をする人間が必要だ。そこで韓国から呼び寄せられたのが、尹汝貞演じる妻の母親。

 このハルモニ、孫たちに花札(韓国ではファトゥ)を仕込んだり、教会で回される募金用の帽子から高額ドル札を失敬したりする茶目っ気満点の元気ものだ。どうやって検疫の目を潜り抜けたかは不明だが、ミナリ(芹)を持ち込んできており、孫とともに水場を探して芹田を作る。実際には在米生活が長く、流暢な英語の使い手なのだが、役の上では「ワンダフル」一本鎗。孫を褒めるときも「ワンダフル」。芹が育つと「ミナリ、ワンダフル」。韓国訛りで「ウォンドプル」と言わないのが玉にきず。

 彼女持参の音楽テープからは、「サランへ」という懐かしい曲が流れてくる。朴燦鎬『韓国歌謡史』(邑楽舎)によれば、この歌は、ラナ・エ・ロスポという名の混声デュエット曲として71年に発売され、フォーク・ブームの先駆けとなった大ヒット作である。その後、何人もの歌手によってカバーされ、日本では李成愛、桂銀淑、さらには八代亜紀らによって歌い継がれている。


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