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2021/08/27

<韓国文化>韓流シネマの散歩道 作品にも相手役にも恵まれた俳優   第61回                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

  • 韓流シネマの散歩道 作品にも相手役にも恵まれた俳優    第61回                                     二松学舎大学 田村 紀之 客員教授

    美しい悪女としての存在感を示したサスペンス映画『藁にもすがる獣たち』

 『藁にもすがる獣たち』(20年)の原作は曽根圭介の同名小説。監督のキム・ヨンフンは、翻訳本のタイトルが気に入って映画化したというが、原作をさらにひとひねりし、意外な結末へと盛り上げる。

 某地方都市の深夜のサウナ。事業に失敗しアルバイトで生計を立てているジュンマン(裵晟祐ペ・ソンウ)がひとりで店番をしていると、見るからに重そうなバッグを抱えた男が現れ、バッグをロッカーに入れた後、ある銘柄のタバコを買ってこいと命じる。一人勤務なのでと断ると、男はしぶしぶ最寄りのコンビニに出かけ、そのまま帰ってこない。ジュンマンは勤務が明けると、バッグを倉庫にしまった。中には10億㌆もの大金が詰まっていた。

ジュンマンの妻は旅客ターミナルの清掃員として働き、家計の助けとしていた。この一家は、認知症気味の夫の母親・スンジャ(尹汝貞ユン・ヨジョン)と子供を抱え、やり繰りに四苦八苦していた。

 一方、出入国審査官のテヨン(鄭雨盛チョンウソン)は、かつての恋人ヨンヒ(全度妍チョン・ドヨン)に多額の借金とともに失踪されて、金融業者ドゥマン(チョン・マンシク)からの厳しい取り立てに追われている。他方、株式投資に失敗したミラン(シン・ヒョンビン)は、夫のDVに耐えながら主婦売春で挽回を図ろうとするうちに、ヨンヒと親しくなる。

 大金の詰まったバッグといえば、『地下室のメロディ』を連想したくなるが、ここではバッグを巡って獣と化した人間たちが争いあう。また、『ウィンチェスター73』のように、多くの人手を経る銃の運命といったロマンもない。ただ、全度妍の色気の露出と、尹汝貞の相変わらずの存在感は十分に楽しめる。

 じつはこの二人、故・金綺泳(キン・ギヨン)の名作『下女』(60年)のリメーク版『ハウスメイド』(10年、林常樹監督)でも共演している。


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