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2011/11/11

<トピックス>私の日韓経済比較論 第10回 世界の金融市場に翻弄される韓国通貨                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆過度なウォン安が経済危機誘発も◆

 ギリシャの財政危機に端を発し、欧州金融市場が不安定になっている。ギリシャに対するEUの債務削減案がまとまったこともあり、現在のところは世界金融危機といった状況にまでは発展していない。

 しかしEUにおいて問題を抱えている国は、ギリシャにとどまらず、イタリアもIMFの監視下に置かれるなど、世界金融危機にまで発展するリスクは未だ消えていない。

 世界の金融市場が動揺すると多くの国の為替レートに影響を与えるが、日韓ともその例外ではない。日本の場合は、欧州、アメリカが先行き不透明であり、消去法として円が買われ、円レートは変動相場制に移行してからの最高値を更新した。

 このように日本では欧米の金融市場が不安定になると通貨が強くなる傾向にあるが、韓国では様相が全く異なる。欧米の金融市場が不安定になると韓国ウォンは価値を減ずる傾向にある。

 韓国における為替急落で記憶に残るものとしては、97年の通貨危機時が挙げられる。97年の11月中旬には、1㌦=1000ウォン以下の水準にあった為替レートが、12月24日には1900ウォン(韓国銀行データベースによる)にまで急落した。この時のウォンの急落は韓国側の問題によって生じた。すなわち、企業や金融部門の構造問題が深刻化するなか、経常収支の慢性的な赤字や短期の資金流入が続いていた。

 そして97年の財閥破綻に端を発し構造問題が顕在化したため、短期資金の逆流が生じた。そのようななか、短期外債残高に対して外貨準備が全く足りず、ドルが決定的に不足したことから、最終的にはIMFから支援を受ける事態に発生した。その結果、ウォンに対する信頼が大きく損なわれ、通貨が急落した。

 しかし08年のリーマンショックに端を発する世界金融危機時のウォン急落は、97年の状況とは根本的に異なっており、韓国経済の実態を反映しないものであった。

 97年の通貨危機以降、不良債権処理や問題企業の処理などの構造改革によって、金融部門及び企業部門は健全となった。また企業の過剰投資が解消されることで、IS(貯蓄投資)バランスが改善され、経常収支も黒字基調が定着した。

 さらに外貨準備も07年末には2600億㌦を超え、短期外債残高を大きく上回る水準にまで積み上がった。

 確かに景気循環の上では韓国経済は08年1月より後退局面に入っていたが、それほど深刻とは言えなかった。しかし08年の4月下旬までは1㌦=1000ウォンを切っていたウォンの価値が、同年11月26日には1510ウォンにまで急落した。

 なぜウォンが急落したかと言うと、欧米の投資家が韓国から資金を回収しやすかったためである。リーマンショックにより被ったショックにより、欧米の投資家は資金の確保が急務となったが、そのために資本移動規制の緩い韓国から多くの資金を回収した。

 世界の金融市場で資金が潤沢な時は、韓国に巨額な資金が流れ込むが、資金不足に陥ると資金が一気に逆流してウォンの急落を引き起こす。韓国政府も何も対策を講じていないわけではなく、近年は資本移動を抑制する制度を幾つか導入し、通貨スワップ協定の締結により不測の事態に備えている。

 しかしこれで万全とは言えず、現在もくすぶっている欧州における金融問題が世界金融危機に発展すれば、再びウォンの急落は避けられない。日本ではウォン安はうらやましいとの声も聞こえるが、これは輸出競争力の側面だけを見ており、ウォン安は輸入製品価格の上昇など様々な副作用も引き起こす。

 またウォンが急落するとの予想が止まらなければ、さらなる資金流出から、際限なくウォンが下がる。

 つまり韓国経済には問題がないにもかかわらず、他国の巻き添えとなり、通貨危機が生じるとの最悪のシナリオも否定できない。日韓とも世界の金融市場の影響を受ける傾向にあるが、円高の方がまだましであると言えよう。