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2011/03/11

<トピックス>炭素繊維産業の発展を 李 泳官・東レ尖端素材社長に聞く

  • 李 泳官・東レ尖端素材社長

    イ・ヨングァン 1947年9月12日生まれ。73年弘益大学校化学工学学士卒業。03年高麗大学校経営大学院修士 (国際経営) 修了。73年サムスングループ•第一合纎入社。99年東レセハン・代表取締役社長。現在、東レ尖端素材•代表取締役社長兼在韓国東レ代表、全国経済人連合会監事、韓国高分子学会会長。01年大韓民国エネルギー大賞最高経営者賞授与。

  • 炭素繊維産業の発展を②

    亀尾の技術研究所

  • 炭素繊維産業の発展を③

    亀尾のフィルム生産工場

 韓国有数の先端素材メーカーである東レセハンが、昨年の創立10周年を機に東レ尖端素材(TAK)に社名変更し、新たなスタートを切った。さらに、今年は約630億ウォンを投じて炭素繊維工場を新設すると発表するなど、東レグループの重要な戦略拠点として注目を集めている。李泳官・社長に今後の事業展開を聞いた。

 ――昨年、社名を東レセハンから東レ尖端素材(TAK)に変え、新たな出発となりましたが。

 当社は東レとセハン社が合弁で運営していたが、08年に東レがセハンの持分を100%引き受けたのに伴い、社名変更の必要が生じた。創立10周年を迎えたことを機に新ビジョンを作り、社員にも新たな夢を抱かせ、新目標を掲げようという意味もあり、社名を変更した。これをきっかけに、改めて韓国政府と産業のニーズに応じた製品を開発し、地域社会と韓日経済に貢献することを当社の大きな戦略目標とする。

 また、“先端材料で世界トップ企業を目指す”東レグル−プの志の成就に向けて、2020年には売上高4兆ウォン、営業利益4500億ウォンの超優良企業に成長させ、最高の素材で新しい明日を作る外資企業として、成功事例を作って行きたい。

 ――最先端の炭素繊維の量産工場を、韓国の亀尾に建設する計画を発表されました。実現に至るまでの経緯は。

 韓国政府が追求している産業のキーワードは低炭素・グリーン成長だ。炭素繊維は自動車、航空機などの軽量化を通じて燃料使用を減らし、二酸化炭素の発生量を減らす素材だ。炭素繊維は鉄の四分の一の重さながら10倍以上の強度を持ち、低炭素・グリーン成長に向けた最適の素材と自負している。韓国政府は炭素繊維関連事業のロードマップを発表したが、炭素繊維の10年度の国内需要は2400㌧を20年には1万4000㌧に拡大すると予想している。当社も工場建設に乗り出し、13年に量産を開始する。

 韓国での投資決定は、東レのアジア拡大戦略の一環で、韓国市場の需要急増に対応し、建設費用とユーティリティーコストで競争力があるからだ。韓国市場の開拓と共に、産業用途向けのアジア製造拠点として位置付ける。

 ――炭素繊維工場が完成すれば、どんな効果が期待できますか。

 炭素繊維の輸入代替効果があり、韓国が成長動力とする親環境・グリーン成長産業を支える核心素材として、今後軽量化と高機能化が欠かせない自動車や産業用機械部品、エネルギー関連産業向けなど幅広く使うことができる。直接・間接に、20年まで十数兆ウォン規模の新規市場創出が期待できるだろう。

 ――東レは早くから韓国に進出、投資を増やしてきました。なぜ韓国に積極的な直接投資を行ったと考えますか。またどんな成果を上げていますか。

 東レが韓国に進出した理由は、韓国政府の積極的な支援と優秀な人材、競争力に優れたインフラを取り揃えていたからだ。また、韓国はIT(情報技術)、半導体、ディスプレー、自動車産業など競争力確保と成長を追求しながら、国家の発展を目指している魅力的な投資先だ。東レの強みは、韓国での利益を国内で新規事業へ再投資できることだ。東レの「成長する地域・事業に投資する」という事業マインドが、TAKの急成長と成功をもたらした。

 ――韓国に進出した外国投資企業の中で、東レは労使関係が最も良好です。その秘訣は。

 当社は毎月、月例会を通じて各部門別の売上と利益などを説明し、全社員に知らせるなど透明な経営の実践に努力し、また随時、社員を呼んで、意見や苦情も直接聞いて一緒に解決するなど、信頼関係作りの努力を惜しまない。会社経営に最も大事なことは、労使関係の安定だ。

 ――東レは韓日企業交流の模範的なモデルケースといえます。どんなパートナーシップを目指していますか。

 東レグル−プの基本方針は、韓国での事業を短期的な利益追求ではなく、長期的時点で捉え、韓国の産業振興・輸出拡大・技術水準向上に寄与することだ。成果の共有と韓国の産業発展に貢献する「共存のパートナーシップ」を目指している。韓日双方の経営トップ間の友好、信頼、協力関係を維持するため、常に努力している。また、優秀な韓国人経営者に経営を一任して、現地の優秀な人材を活用。労働組合に対しては経営情報を公開して信頼関係を築いている。

 両国経営トップ間の深い信頼に基づいて、それぞれの文化と制度を尊重し、理解することで、両者の強みを融合して新しい文化を作り上げ、「共存のパートナーシップ」を企業文化に昇華させ、堅固な成長を続けてきたと思う。日系企業の韓国代表として、今後とも模範を示していきたい。日本企業は韓国でビジネスを展開することによって、韓国経済と産業発展に寄与し、韓国と日本がコラボレーションを通じて成功事例を作るためにベストをつくしている。

 ――今後の韓日経済交流についての提言を。

 韓日間の積極的な交流拡大のためには、韓国がよりオープンになる必要があると思う。優秀な技術力を持った日本企業が韓国に進出できるように、韓国政府の支援とインセンティブが必要だ。日本企業は、日本に比べてコスト競争力があるという韓国の長所と優秀な人材を活用してほしい。特に韓日FTA(自由貿易協定)の早急な締結を通じて、ウィン・ウィンの関係をベースに、中国市場に向けても協力していければと思う。