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2011/10/07

<トピックス>経済・経営コラム 第34回 日本のデジタル家電を沈没させるな                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆さまざまな事情や思惑を超えて早急に家電業界の再編を◆

 デジタル家電の、日韓競争がいよいよ最終局面に入ったと実感する。

 現在、韓国勢が日本勢を大きく突き放している。競争次元で両者を比較すると、ブランド力、量産化技術とコスト競争力(半導体や液晶パネル)、新技術による商品開発力(LED、3D、有機ELの各テレビ)、連続した多額のマーケティング投資力、そして現地対応の経営意思決定のスピードなどで、韓国勢が日本勢を大きく上回っている。日本勢の反撃戦略が進んでいるが、日韓再逆転には至らない。

 2010年の世界の液晶テレビの販売台数は2億1000万台だった。サムスン18・7%とLG13・1%で、韓国勢が約32%だ。日本勢は4社(ソニー10・7%、パナソニック9・6%、シャープ7・1%、東芝6・7%)で約34%。一強、二中、三弱の構成である。韓国勢が伸び続け、日本勢は停滞・下降を余儀なくされている。金額ベースだと韓国勢が36~38%を占める。LEDや3Dなどの高級機種で韓国勢が強いからだ。

 新技術でのテレビでも韓国勢に先を越され、有機ELテレビに至ってはLGが2012年には55型を導入するとのことだが、日本勢は商品開発のめども立っていない。携帯電話では、日本勢のグローバル・プレゼンスはほとんどないが、スマートフォンでもサムスンはアップルに次いで世界2位、タブレット端末でも猛攻中である。日本勢はいずれにも見る影もないのが現状で、テレビの次のデジタル家電での成長戦略はないに等しい。

 私は業界を再編成すべきと言い続けている。2~3のメガ・カンパニーに集約して、上の競争次元でサムスンやLGに対抗・凌駕できなければいけない。日本勢よ、さまざまな事情や思惑を超えて合従連衡せよ!

 一方では、企業が制御できない外部要因(原発停止による電力不足や国際的競争環境要因)で、日本勢は韓国勢に比べて、圧倒的に不利な状況にある。実態の経済力とあまりにもかけ離れた円高の進行を放置、FTA(EPA)やPPPなどを通した通商相手国の市場開放への働きかけでの政府の怠慢、世界一高い法人税率、そして電力不足のボディブローなどが日本勢を苦しめている。韓国政府はこれらの外部要因を国益に沿って解決・解消してきた。

 政府の円高放置が海外での日本勢の価格競争力を損ねているし、自由貿易への怠慢は日本製品への関税負担の継続となり価格競争力を更に弱めている。高い法人税率は国内投資への資金と意欲を削いでいる。電力不足は、海外への生産移転を加速する。政府の無策・無関与が、四重苦となって日本勢を襲っている。味方のはずの政府が、日本勢の外堀をせっせと埋め立てて、自国の企業をライバルの攻撃にさらしているのだ。ソニーもパナソニックも、企業をあげて国外に脱出するしか生き延びる道がなくなる。円高を利用して海外展開を拡大する絶好のチャンスでもある。

 外部要因の大部分は政府の力で解決できる。経済成長という正当な国益を拡大するために、外部要因を自国有利に解決・解消しなければいけない。そのために企業も私たち個人も税金を払い、直面する最大の難関である経済力を強化する環境づくりを託しているのだ。なのに、今日まで何一つ解決・解消しないままだ。FTAの遅れがもたらすマイナス環境の例を示しておこう。日本経済新聞(11年7月17日付)から一部データを借用した。

 世界の自動車販売台数は約6700万台(10年)だ。その内、韓国は累計4100万台の市場(世界の60%強)を持つ国々とFTAを発効、合意、交渉中のいずれかである。日本の発効、合意、交渉中の国々の累計はわずか810万台(12%)である。全て発効すれば、韓国は世界自動車市場の60%で無関税となり、日本勢は競争力を大きく削がれることになる。政府の怠慢が、日本経済にとって最も大切な自動車メーカーをとてつもなく不利な状況に陥れている。デジタル家電についても同様のことが起きるのだ。

 政府よ、企業の手かせ足かせである外部要因の解決・解消の使命を果たせ!

 デジタル家電で、日本勢の苦境を伝えるニュースが続いている。シャープの堺工場とパナソニックの姫路工場のパネル生産中断と採算割れである。両社とも液晶テレビのグローバル競争で、韓国勢への巻き返し戦略の切り札として巨大工場を建設した。しかし当初の計算よりパネルの国際価格は30%下落し、円は逆に30%上昇した。このダブルパンチで、パネルもテレビも連続赤字に陥った。

 パネル価格の下落は韓国勢も同じだが、大幅なウォン安が続き、グローバル市場での韓国勢の価格優位が続いている。それでも韓国勢のテレビの収益性は大きく下がり、パネル部門の赤字が半年以上続いている。

 パネルの価格競争を仕掛けているのはサムスンだと聞いて、半導体での日韓逆転を思い出した。92年に64MDRAMの開発でサムスンは日本に先行し、徹底したコスト競争力を確立して日本勢を市場からほとんど駆逐した。「勝ち残り」の利益を得、その後連続して「4倍の法則」と言われる高機能・高性能化を連続して実現し、世界一の半導体メーカーとして今日に至っている。

 液晶パネルも半導体の再来になる可能性が高い。果てしない価格競争の先に、サムスンがテレビ・パネル・半導体で断トツ1位として世界に君臨するだろうが、日本勢は再編成で2~3社に集約して日韓再逆転を目指してほしい。台湾勢は世界一のEMS機能を梃にしぶとく残るだろう。

 アイフォーンやタブレット端末用の中小の液晶パネルでは、これまでも日本勢が相対的に強かったが、東芝・日立・ソニーが連合してジャパン・ディスプレイを設立した。シャープと2社体制だ。両社で世界シェア36・4%。デジタル家電のデバイスで日本勢が韓国勢に優位な唯一の分野である。日本のデジタル家電を沈没させてはいけない。