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2012/05/11

<トピックス>経済・経営コラム 第44回 財閥企業と中小企業の相互成長の方法②                                                       西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆インバランスは韓国経済成長の阻害要因◆

 韓国では、中小企業を守るために、財閥のオーナー家族がベーカリーやカフェなどの街角ビジネスから手を引くべきだとか、洋服の仕立てとか自家製ビールなどの分野に大企業を参入させないとかの議論がかしましい。枝葉末節な論議ではないか。グローバル企業はもとより、街角のどんな小さな商いであろうと、顧客のニーズやウォンツを満たす価値を提供できる企業が生き残る。事業や商売の選択は、各自のリスクで、どの企業・個人にもオープンであるのが民主主義・自由資本主義の鉄則である。現在の財閥企業ももとは町の中小企業で、そこから立ち上がってきたのだ。

 それはともかく、私は、IMF危機から現在までの韓国経済の成長モデルは大成功だったが、そのなかに、今日の問題の種が植えつけられていたと思っている。その種が成長して、韓国経済の更なる成長の手かせ足かせになりつつある。つまり、中小企業の育成や所得分配の仕組みの見直しが遅れ、中小企業の疲弊と中間所得層の減少・低所得層の増加という経済・所得のインバランスが結果した。今後インバランスが拡大するほど、韓国経済の成長が低迷することになるだろう。

 一人当たりのGDPが先進国レベルに高まったのに、現在の経済構造ピラミッドも、所得配分のピラミッドも、きれいな三角形ではなく、少数のTOP(上層部)に経済力と所得が集中し、MOP(中間部)が瓢箪のようにくびれて元気で健全な中小企業や中間層が減り、BOP(下層部)に大多数の競争力不足の中小零細企業と低所得の雇用者が集まっている。このインバランス=いびつをたださねばならない。韓国経済のいまの仕組みを、もう一度脱皮させて新しく組み替えなければならない。つまり、MOPの中小企業を増やし、健全な中間所得層を増やす経済の仕組みを創造する必要がある。
 
 中小企業はなぜ中小企業のままなのか?低所得者はなぜ低所得者のままなのか?誤解を恐れずに、この問いへの直球解答をすれば、財閥企業が実現できた競争力革新をする能力が中小企業に決定的に不足していたからである。だから業績(売上や収益)が向上しない。業績が良くない企業が社員に高い給与を払えるはずもない。低所得者の、所得を高めるための自分自身の能力開発努力が不十分だった側面もあるだろう。

 いま求められているのは、中小企業が革新を実現して、たとえば、大企業の補完分野か大企業が気付かない分野で、商品の高付加価値化とその社員のプロフェッショナル化を実現する仕組みではないか。そのために、最も必要なことは、連続した技術革新、商品革新、経営革新を起こすための能力、つまり、人材・技術・資金・情報を確保することだ。そして、中小企業ならではの、大企業を補完する分野など、いままでにない独自の付加価値=顧客価値を創造・提供して業績を盛り返し、連続成長を実現する。これからも予想される激しい国際競争を勝ち抜くためには、財閥企業だけでなく中小企業も含めた、韓国のすべての産業が分厚い層での高付加価値化を実現して、国内を豊かにするだけでなく、海外市場に打って出て一段と多くの利益を持ち帰る経済構造に脱皮する。

 中小企業育成のカギは人材だ。人材とはプロフェッショナルのことである。Labor(レイバー)といわれる単純肉体労働やWork(ワーク)といわれる現場・事務作業は、コンピューターに取って替わられる。また、低価格だけが競争力である汎用品では、生産販売活動がどんどん海外に移転するのと同時進行で労働や作業も海外に移転して、国内の職場が減っていく。そんな分野に中小企業の未来はない。だから、ますます求められるのが、中小企業ならではの高い付加価値を生みだす企業とそれを支える専門家=プロフェッショナルな人材だ。人材が技術を開発し、技術を駆使して付加価値を創造する。「全ては人から」である。

 中小企業の高付加価値化と人材のプロフェッショナル化の仕組みについて提案したい。政府・財閥企業が共同して、中小企業の育成のための財団を設立して、革新を生み出す技術支援、社員の能力開発の手助け、資金援助などを大々的に行う。中小企業が提案し審査にパスすれば、一定期間財団から上のような支援を受けられる。

 人材、生産財や資本財、技術開発、商品開発、マーケティング、大学や研究機関とのコラボレーションなどの支援を受けつつ自社の社員の教育・訓練もOJT(仕事の現場)で実行する。中小企業育成の分野は、たとえば、以下のように選択集中する。

 ①環境など今後の成長分野の、新事業・新商品開発、新技術・新素材開発で独自の付加価値を創造する。とくに、大企業の補完とかニッチ分野を開発する。

 ②サービス産業の創造と充実を実現する。とくに、医療・福祉・介護に集中する。韓国社会の高齢化対策に先手を打つ。

 ③地域経済の活性化に取り組む。ソウル一極集中の経済構造を改めて、地域独自・ならではの商品やサービスの開発と販売、観光開発と顧客の内外からの誘致を加速させる。職を持たない若者を再訓練して、この分野の仕事を与える。

 財団の競争的支援を獲得するために、中小企業が積極的になり活性化するだろう。財閥企業は、かつて社会資本を特恵的に集中して使わせてもらい今日の繁栄を築いたお礼に、財団を通して中小企業の育成と、その結果の低所得層の所得向上に喜んで協力するに違いない。

 そして、中小企業の社員たちの収入も、財閥企業の社員のそれと同様に、徹底した成果主義で、成果が高い社員に厚く、成果が低い社員には薄く、の仕組みを取り入れていかねばならない。