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2013/11/01

<トピックス>私の日韓経済比較論 第34回 韓国のTPPへの参加                                                      大東文化大学 高安 雄一 教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2013年より教授。

◆日本の交渉参加が影響、韓国も決断◆

 10月7日と8日にインドネシアのバリ島で行われたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談で、朴槿惠大統領がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明するのではないかとのマスコミ報道が流れた。しかし参加表明はなされなかった。

 これに関連して、産業通商資源部は、TPPの参加について政府はまだ方針を定めておらず、バリ島でのAPEC会議後に大統領府経済首席秘書官が、「今回のAPEC期間中に、韓国政府からTPP参加にかかる表明はなかった」と述べたと説明している。

 大統領から正式な参加が表明されていない以上、事務方が既に方針は定まっているとは言えないのは当然であるが、実際のところはTPPへの参加を決断していると考えるのが妥当ではなかろうか。

 日本がTPP交渉に参加するまでは、韓国はTPPへの参加に強い関心を示していなかったと考えられる。これは、韓米FTAが妥結したため、わざわざTPPに参加する必要性が薄かったからである。

 2011年11月16日における会見で、当時の外交通商部通商交渉調整官は、TPPに関して加入する計画や意向は持っておらず、現在のところは国益に役立つとの結論に至らないと述べている。

 またその際には、日本が交渉に参加するか否について注視する旨の発言もしているが、当時は、日本が参加する可能性は高くないと判断していたのではないかと考えられる。

 韓国政府が、TPPへの参加に大きく傾いた理由は言うまでもなく、日本が交渉参加を決断したことである。

 TPP参加国で韓国とFTAを締結している国は、アメリカ、チリ、ペルー、シンガポールである。また韓国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)とFTAを結んでいるので、ベトナム、ブルネイ、マレーシアも締結国に含まれる。

 一方、TPP参加国で韓国とFTAを締結していない国は、日本、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコであるが、これらの国には、韓国とFTA交渉をした経験があるとの共通点がある。

 韓国は日本と、2003年から04年にかけて6回にわたり公式協議を行ったが、04年11月に交渉は中断された。その他の国々も韓国と何度か公式協議を開催したものの、妥決には至らず、韓国政府の分類では、協議再開に向け条件を調整している国となっている。

 現在TPPに参加している国のGDPは、IMFが推計した13年の数値で、約30兆㌦である。そして当然のことながら、アメリカの規模が大きく、17兆㌦で全体の56%を占めている。続いて日本が5兆㌦と続くが、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコの4カ国を合計すれば、4兆8000億㌦と、ほぼ日本に匹敵する。TPP協定が発効した場合、韓国の輸出企業は、合わせて日本と同等の経済規模を有する国々との貿易において、日本企業と不利な条件で競争しなければならなくなる。

 韓国の輸出依存度は13年4~6月期で54・4%に達しており、好調な輸出なくして経済成長は難しい。ましてや、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコは、経済的なメリットを勘案した上で、一度は交渉した国々である。よって、日本だけがこれらの国々と貿易自由化を進めることはどうしても避けたいところであろう。

 TPPに参加する場合、国内経済が影響を受けることは避けられない。しかし、アメリカとの関係では、既にレベルの高いFTAを締結しており、これ以上の自由化を迫られる可能性は小さい。オーストラリアやニュージーランドは農業部門における例外を認めないとの立場をとっているが、さすがに日本のコメは例外とされるであろうから、韓国のコメだけが自由化されることもなさそうである。

 10月初めにマスコミが、「政府はTPP参加をほとんど決め、公式発表時期だけを調整している」と報道し、産業通商資源部はこれを否定した。しかし実際は、報道のとおりタイミングを見極めている状態と言ってよさそうである。