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2014/10/10

<トピックス>張相秀の経営コラム 第5回                                                          張 相秀 亜細亜大学特任教授

  • 張 相秀 亜細亜大学特任教授

    チャン・サンス 1955年韓国生まれ。慶応義塾大学経済学修士、同商学博士。一般財団法人日本総合研究所専門研究員、サムスン経済研究所人事組織室・室長などを経て、現在は亜細亜大学特任教授。

  • 張相秀の経営コラム 第5回

◆サムスンの破壊的革新とグローバル企業への変身(下)◆

 超一流グローバル企業を目指しての新経営宣言には幾つかの特徴が挙げられる。まずは、ガラパゴスの世界からの脱出である。李会長の言い習わした言葉が“5年、10年先の糧を考えなさい”とのことであった。各社の社長や役員達はこれを肝に銘じて、経営戦略を立てるとき、短期よりは長期、ローカルよりはグローバルの観点から取り込んできた。

 今日、サムスン電子の場合、売上高の9割強が海外からの実績である。この点がソニーなど日本企業との違いであろう。すなわち、1990年代に入ってから、戦略行動において大きな差が出はじめた。バブル崩壊の後遺症などで、日本企業は外向きから内向きに転じたのに対して、韓国企業その中でもサムスンは内向きから外向きへと大胆に舵を回した。そのきっかけとなったのが「新経営」宣言である。

 第2番目は、人財の育成と確保である。長期のグローバル経営戦略を成功させるためには、何より肝心なことはグローバル人財の育成と確保であるとの認識と持続的な実行である。李会長自身がこのように認識し、会長就任の前からグローバル的で、かつ長期的な観点から人材の確保や育成に積極的に取り込んできた。日本でもよく知られている「地域専門家制度」や「サムスンMBA制度」「語学研修センター」の運営などがその一例である。これらのグローバル人材育成制度については別の機会に詳しく述べることにしたい。

 一方、グローバルビジネスで勝つためには、3Pの観点、即ちPeople(ヒト)-Product(モノ)-Process(コト)の三つの面でのバランスの取れた競争力を確保すべきだとの認識のもとで新経営運動は進められた。特に、ヒトの面では在職人材の育成(グローバルパワーの向上)と並行して、内部には存在しなくかつ育成には時間が掛かりすぎると思われるグローバルパワーを持つコア・ピープルは国内外の外部から積極的に迎え入れてきた。いわゆる、「核心人材論」である。彼らには能力と成果に相応しい金銭的、非金銭的な処遇を与えて、できる限り長く努めてもらうように気を配っている。この点も日本との違いである。すなわち、サムスンでは90年代から中途社員を毎年、当該年度の新卒社員数の1~3割採用してきた。2000年代に入り、近年に近づくほど中途社員の絶対人数や割合はさらに高まっている。


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