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2017/10/06

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第28回 文政権の労働政策の展望⑤「未組織労働者の労使関係」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆雇用労働部による事業場点検と厳罰強化を◆

 韓国の労使関係というと、労働組合の強い戦闘性などが連想されがちである。しかし、韓国の労働組合組織率は1割程度にすぎず、労働者の大半は労働組合に組織されてない。労働組合が存在しない事業場においては、使用者側の力が強いため、労働者が待遇改善を要求することは困難である。

 また、労使政委員会など政労使間の協議において主導権を握っているのは労働組合であり、全労働者の9割程度を占める未組織労働者の利益が積極的に代弁されるような政労使協議システムにはなっていない。

 このような背景から、中小企業労働者や非正規職など未組織労働者が労働条件の改善のために使用者・政府と協議・交渉できるような新たな労使関係システムの構築を求める声が強まってきた。文在寅政権の労働政策はこの要求に沿うかたちで方向性が示されている。今回は、①労働会議所の設立と②労働者代表制度の機能改善を中心に労使関係政策について紹介する。

 ①労働会議所の設立

 文在寅氏は、労働会議所を法定の労働団体として設立できるよう制度の整備を図り、労働会議所を通じて中小企業・非正規職・特殊雇用など脆弱階層労働者に対する法律サービス、職業能力開発、福祉支援事業、政策研究事業等を遂行することを大統領選挙の公約に掲げた(共に民主党『第19代大統領選挙公約集』)。

 この公約に対し、ナショナルセンターの反応は二分した。韓国労総は、労働会議所が未組織労働者を保護するための現実的な代案であるとして歓迎の意向を示したのに対し、民主労総は、労働組合以外の法定労働団体である労働会議所を新たに認めることによって労組が弱体化することを憂慮した(インターネット京郷新聞、2017年3月15日記事)。

 文在寅政権発足後、金栄珠・雇用労働部長官は、未組織労働者を代弁するための労働会議所の導入を国会議員と協議して推進することを表明している(インターネット韓国日報、2017年8月22日記事)。

 韓国の場合、労働組合は大企業正規職などを中心に組織されている。労働会議所設立の趣旨は中小企業労働者や非正規職など未組織労働者の待遇改善にあることから、労組の弱体化にはつながりにくいであろう。韓国社会において脆弱階層労働者の組織化が進まない現状を考慮すると、労働会議所の設立は現実的な代案といえる。

 ただし、労働会議所が自らの独立性を保ちながら労働者の待遇を改善するための機能を発揮するためには、労働者に労働会議所の加入を義務づけ、会費を徴収することも必要になる。したがって、低賃金労働者の負担が大きくならない方法による財源確保を模索しつつ、脆弱階層労働者が積極的に活用できるような事業の展開が求められる。

 ②労働者代表制度の機能改善

 韓国は、日本と異なり、労使協議会の設立が法律で義務づけられている。「勤労者参与及び協力増進に関する法律」第4条1項では常時従業員30人以上の事業・事業場に労使協議会の設置義務が規定されている。労使協議会での協議事項は、生産性向上と成果配分、労働者の採用・配置・教育訓練、労働者の苦情処理、労働者の安全・保健、経営・技術上の事情による雇用調整の一般原則、人事労務管理や賃金制度の改善など広範囲に及ぶ(同法第20条1項)。

 しかし、


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