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2018/10/05

<トピックス>韓国労働社会の二極化 第40回 賃金問題⑤「EITC(後編)」                                                   駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

  • 駿河台大学 法学部 朴 昌明 教授

    パク・チャンミョン 1972年兵庫県姫路市生まれ。関西学院大学商学部卒。関西学院大学大学院商学研究科博士課程前期課程修了。延世大学大学院経済学科博士課程修了。現在、駿河台大学法学部教授。専攻分野は社会政策・労働経済論・労務管理論。主な著作に「韓国の企業社会と労使関係」など。

◆現実性のある柔軟な労働政策の展開を◆

 前回のコラムでは勤労奨励税制の概要と今夏に発表された改定案について紹介した。

 文在寅大統領が政権公約として掲げてきた最低賃金の大幅引き上げに対しては企業や自営業者等からの激しい反発が続く半面、政策修正の一環として浮上した勤労奨励金の増額や適用対象の拡大等については強い抵抗が見られない。それはなぜであろうか?

 今回は文在寅政権が拡大しようとしている韓国版EITCについて予想される効果と問題点について検討を行う。

 韓国社会で深刻化している非正規職や零細自営業者などワーキングプアをめぐる本質的な問題は「貧困」である。

 最低賃金制度と勤労奨励税制は低所得層を支援することで貧困からの脱却を図っている点においては類似しているものの、勤労奨励税制の方がより現実性を踏まえた低所得者支援を可能にする。それは主に以下の二点である。

 第一に、勤労奨励税制は支援対象となる低所得者の範囲が広い点である。最低賃金は賃金労働者を対象とするため、零細自営業者は制度の対象外となる。また、企業が法令を遵守しないために最低賃金未満の水準に止まる労働者も数多く存在する。

 他方、勤労奨励税制は賃金労働者・自営業者ともに低所得世帯であれば適用対象となる。低所得世帯は、受給要件を満たして申請手続を行えば、政府から勤労奨励金が得られるわけである。したがって、低所得者支援に関する「死角地帯」の問題は改善される。

 第二に、勤労奨励金の拡大は企業・自営業者の負担を増加させない点である。最低賃金の引き上げに伴う負担を担うのは企業や自営業者である。特に経営状況が厳しい中小零細規模の企業や自営業者にとって最低賃金の大幅引き上げはまさに「直撃弾」となり、廃業や雇用削減など低賃金労働者にも致命的な副作用をもたらしうる。

 他方、勤労奨励税制改定による低所得層の支援強化は企業経営には直接負担をもたらさず、特に低所得自営業者にとって勤労奨励金の支給は自身の所得増につながる。今回の勤労奨励税制の改定案に対して企業や自営業者から特に反発が見られなかったのはこのためである。

 だが、勤労奨励税制にも問題点が存在する。それは以下の二点である。

 第一に、勤労奨励金の負担者は政府であることから、勤労奨励金の拡大に伴う財政悪化が懸念される。

 政府は低所得層支援を通じた所得主導型の経済成長を企図しているものの、


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